第20話 ギリギリセーフ

 部屋に帰ってくると、テレビのスイッチを押した。

 帰ってきてから、ステラさんを一人にして良かったのかと後悔し始めた。

 何も言わなくても、側にいるべきだったのでは……。


「あぁぁぁああああ!!! 分からんっ!! 女心って、なんて難しいんだ!!!」

 髪をぐちゃぐちゃに掻き乱す。

 異世界に通い始めてから、頭を使うことが増えた気がする。

 妄想なんかも含めてだけど。


 と言うことは、今までの俺はそれだけ何も考えていなかったということだ。

 だってなぁ……友達もいないし、まず関わる人が身内のみだんもんな。

 その身内も仕事が忙しくてほとんど家にいないから、一人暮らしのようなもんだ。

 

「そもそもを言えば、俺が自分でご飯を作れるようになったのが間違いの始まりだったんだよ」


 そうだ、思い出してた。

 両親共に働いていたから、俺はまず自分でおやつの準備をするようになった。それから簡単なご飯。今では食べたいものならそこそこ作れる。

 でも自分が食べたいものだと油ギトギト料理ばかりになってしまう。

 しかもそれを咎める人もいない。


「そりゃあ、太るはずだよな」


 人のせいにするなと言いたいだろうが、自分の好きにできる環境が今までは幸福だったが、そのせいで今の体型になったんだ。

 誰かに責任を押し付けでもしないとやってられない。


「悠伍ーー!!」

「あっ杏奈!! そうか! 今朝、スペアキー渡してたんだ」

 やはり、早く帰ってきて良かった。

 杏奈に家の鍵を渡していたことを、完全に忘れていた。


 俺が異世界に行っている間、こっちの世界ではどうなっているのか、分からない。

 もしもテレビがつきっぱなしになっているのなら、明らかに変だ。


 一階に降りながら、冷や汗を拭った。


 こんなにも毎日杏奈が通い詰めてるから、退屈はしない代わりに、こう言う時焦る。


「どうしたん? 今日は遊びに行ってないん?」

「行ったよー。ちょっとだけね。今日さぁ、めちゃ神っててぇ。ゲーセンで大量にお菓子ゲットしたんだー! だから、悠伍にも分けてあげようと思ってさっ」


 …………ぐはっ!!!

 またこれだ。こういうタイミングなんだ。

 

 嬉しいに決まっている。

 ダイエットはしているが、神様が『食べるが良い』と言ってくれているんじゃないかって思ってしまう。


 でも俺は運動さえできないポンコツだ。

 これで痩せないままだと、いつかエマさんとステラさんに見放されてしまう。

 そうなれば、俺は一生デブのままなんだ。


 杏奈はそんな俺を気にもせず、袋からお菓子を全て並べていく。

 まぁ、よくもこんなに取ったもんだと感心してしまう量だ。

 流石の杏奈も一人では食べきれないだろう。


 だから俺の登場だ。

 どんなお菓子でも丸呑み可能。

 山のように積まれたお菓子だって一瞬で平らげる。


 なんて、自慢している場合ではないのだ。


「あのさぁ、杏奈。何もかも俺の家に持ってこないくてもいいんだよ?」

「違うって! ウチがそうしたいからやってるだけじゃん」


 ダメだ。今日も解決することなく言い合いが続く予感しかしない。


「ねぇ、ポッキーゲームする?」

 杏奈が口にポッキーを一本咥えて、顔を近づける。


「するわけないだろ」

 そのポッキーを奪い、普通に食べた。


「ポッキーなんて、普通に食べるのが一番美味い……って! なんで杏奈の顔、真っ赤なん?」


「な、なんでもにゃい!! ウチ、今日は帰るね!」


 カバンを掴むと、そのまま走って帰っていった。


「……変なやつ」


 

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