第17話 一緒に……
杏奈と並んで歩く。
とりあえず俺は、ぼーっと歩いていたら駅を通り過ぎていたと誤魔化しておいた。
ダイエットをしているから協力してほしいと言って済むなら、そうしたい。
でもなぜか、杏奈は俺の口から「ダイエット」という言葉を出すのさえ嫌がっている。
それなのに、俺が頑なにダイエットと口にするのは気も引ける。
異世界のことも黙っておきたいし。
「そういえば、パンありがとねぇ~」
「ああ。起こせって怒られるかと思った」
「ウチ、目覚まし三個使ってるけど起きねーから」
「それは……やばいんじゃ……」
寝起きが悪いのは、今に始まったことではない。
それを杏奈自身、自覚しているようだ。まぁ、昔から親が嘆いてたしな。
「明日からも、杏奈と一緒に一駅歩こうかな?」
「ええ? 悠伍がぁ?」
目を丸くしながらも、まんざらではない様子だ。
「そしたら、杏奈も遅刻しないで済むだろう?」
「本当だーー!! マジ、悠伍って天才じゃん」
「まぁ、ね……」
俺もまんざらではない顔をする。
これで朝、堂々と歩ける!!
素晴らしい!! 心の中でガッツポーズを決める。
毎朝、杏奈を起こして一緒に家を出る約束をした。
ついでに、夜にお菓子とかを持ってくるなと言わなければいけない。
でも、そうしたら本当にお菓子にサヨナラしないといけなくなる気がして、なかなか言い出せない。
世間話をしているうちに、次の駅が見えてきた。
一人で歩いてた時よりも杏奈と歩き始めてからの方が、随分と早く時間が過ぎたように感じる。
「そうか……俺は楽しんでるんだ……」
「え? 何を?」
「いや、なんでもない」
なんだかんだで、一緒にいて楽な杏奈とは馬が合う。
話のテンポや話題。それに、杏奈は相槌の頻度がちょうどいい。
「電車は別々に座るわ」
杏奈が俺といて恥をかいてはいけないと思って気を使ったのに、杏奈はそれを嫌がった。
「別にいいじゃん。悠伍は色々と気使い過ぎなんだよ。どうせ、大路のせいなんでしょ?」
「大路は関係ないだろ。俺の問題。杏奈は良くても、周りの視線は厳しいんだよ。俺はそれに耐えられない」
杏奈は渋々OKした。
表情は納得してなかったけど。
でもこれが杏奈のためだ。
俺といたら友達でさえ、話しかけられなくなる。
家の外では、杏奈には杏奈の時間を大事にしてほしい。
二人、別々の車両に乗る。
さりげなく見ると、早くも友達と談笑している。
やっぱり俺とは違うと、思い知らされる。
窓に向いて立ち、景色を見送りながら今日の異世界のことを考えていた。
また楽しい散歩で終わるかもしれない。
まだまだダイエットとは言い難いが、少しでも前に進みたい。
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