第8話 シスターの服のバリエーション

 家に帰るや否や、昼ごはんも食べずテレビのスイッチを入れた。

 杏奈は大学の後バイトだと言っていた。

 見つかるリスクの低い時はなるべく通いたい。


 昨日の夜書き込んだファイルを手に持ち、リモコンの黄色のボタンを押す。

 眩いほどの光に吸い込まれると、昨日と同じ施設の中に立っていた。

 今日もここは大いに賑わっている。

 これだけデブに囲まれると、妙な仲間意識を感じるなぁと感じてしまう。

 まあ、そんな親近感持たれても困るだろうけど。


 今日は落ち着いて周りをよく確認しながら、教会の中を探索してみた。

「想像以上に広いんだな」

 エントランスの受付からは、奥につながる廊下が五箇所に分かれて伸びている。

 俺が昨日呼ばれた個室は『三』と書かれた通路だった。


 これだけの人がダイエットのために、ここに通っているのか。

 なんだか負けてられないって気持ちにもなるもんだ。

 しかもここにいる人、全員かは分からないが、各々のシスターから♡ご褒美♡をもらっているんだと思うと、俄然やる気が漲る。

「俺だって、毎日ご褒美が欲しい」

 唇を噛み締めて個室の前を通り過ぎた。

 少し早足になったのは、何部屋かの中からシスターであろう女性のセクシーな声が聞こえてきたからだ。

 

 他のやつのご褒美なんて、誰が聞きたいものか!!

 くっそぅ!!

 俺だって……。俺だって……。

 痩せたらもっと大胆なご褒美もらってやる!!

 受付カウンターまで一直線に詰め寄ると、昨日と同じアナイスさんが対応してくれた。

「あらぁ、昨日と随分表情が違うわねぇ。やる気が溢れてるわよぉ」

 これだけの人がいる中で昨日来たばかりの俺のことを覚えてくれているなんて、嬉しすぎる。


「俺のこと、もう覚えてくれたんですか?」

「私、この仕事長いからぁ。覚えるのが得意になったのよぉ。勿論、初めからこうだったわけじゃないわぁ。まぁ、慣れね。慣・れ♡」


 うふふ……と笑うと、身を乗り出して俺の鼻先をツンっと指でつつく。

 胸の谷間を見せつけられているように感じるが、なるべく視線は落とさないよう意識した。


 昨日は社交辞令を言う失礼な人だなんて思っていたけど、そんなことはない。

 杏奈ほどではないが、ここの人にはカナリ気を許せる。

 きっと、ありのままの俺を受け入れてくれるからだろう。


 アナイスさんは豊満なお尻をフリフリさせながら、エマさんたちを呼びに行ってくれた。


 少し待った後、昨日とは別の部屋へと案内される。

「では、今日はこちらのお部屋になりますぅ。頑張ってくださいねぇ」

 それだけ言うと、アナイスさんはまた受付カウンターへと戻って行った。

 それにしてもクビレがすごい。

 おっぱい>ウエスト<お尻、そして太もも。あれも努力の賜物なんだろうか。

 ムチっとしているが、確かに無駄な贅肉やセルライトはついていない。


「みんな凄いな」

 感心しながらドアをノックした。

 中から二人の声が聞こえると、ドアを開けて出迎えてくれた。

「今日は。悠伍さん!!」

「待ってたよー!! 早く、入って入って!!」

 昨日会ったばかりなのに、こんなにも歓迎してくれるんだ。

 ドアをノックする時は緊張したけど、二人の顔を見ただけで過緊張していた肩の力が抜ける。


 よく見ると、昨日と衣装が違っている。

 シスターの服はいろんなバリエーションがあるらしい。

 エマさんはツーピースになっていて、柔らかい生地のブラウスに、スカートは膝丈のタイトスカートだ。

 そしてステラさんはピッタリとしたスキニーパンツを穿いている。

 どちらもそれぞれにスタイルに似合った形だ。


「今日の服もいいですね」

 女性を褒めたことなんてないから、ぎこちなさは否めない。

 それでもステラさんは満面の笑みを浮かべ、そしてエマさんは慎ましく頬を染めて喜んでくれた。

 俺に褒められてそんなに嬉しいだろか。と思ってしまうが、本当に二人ともよく似合っている。

「ここは教会っぽい作りだけど、ダイエットをする施設だし、ボクたちも本物のシスターってわけじゃないからね。制服みたいなもんだから」

「なるほど。じゃあ、他にも色々なタイプがあるんですか?」

「そうだよ。シスターから希望を出して作ってもらうこともあるし、クライアントさんからの要望で作ってもらうことだってあるんだよ」

「えっ。それは凄い」

 と言うことは、俺がこんな服がみたいと言えば、着てくれるのだろうか。

 まぁ、そんな烏滸がましいこと言えないけど。


「悠伍さんに褒めてもらえて、今日この服を選んで良かったって思いました」

 エマさんが頬を染めたまま、伏せ目がちに言う。本気で照れているようだ。

 こんなデブでも、他人を褒めたら喜ばれるんだな。


「エマったら朝から服選ぶの悩み過ぎて、遅刻したからね!」

「ステラったら、そんなこと言わなくていいじゃないですか!」

「だって本当のことだもーん。普段気に入った服しか着ないのにぃ」

「悠伍さんの前で、恥ずかしいからやめてください」

 エマさんの顔がますます赤くなる。

 いや、これはマジで。本気で勘違いしてしまう。

 二人の会話を聞いているだけで、心拍数は上がりまくりだ。


 エマさんが顔を真っ赤にしたまま言った。

「あの、悠伍さんの好みの服も教えてくださいね」

「ひゃい……」

 デレデレに綻んだ顔で返事をした。

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