第2話 異世界転移した先で
呆然と立ち尽くしている。
どうなっているのか、状況がまるで理解できない。
テレビの中に入ったのか? とも思ったが、そんな風でもなさそうだ。
「俺、どうなっちゃったの……?」
どこかも分からない建物内を見渡すと、広くてアンティーク調の教会みたいだと思った。
そして見渡す限り人で溢れかえっている。
教会ってこんなに賑わっているものなのか?
極楽浄土へ行く予定の俺には未知の世界だ。
良く耳を澄ますと、男性の声に混じって若い女性の声もする。
本当に教会なのかも分からないし、日本なのか外国なのかも分からない。
目に入る人は誰も彼も外国人のような風貌をしているが、不思議と言葉は聞き取れる。
「まさか、アニメみたく異世界に転移してたりして……なんてね」
だっていかにも異世界アニメに出てきそうなんだもんな。
もしかして、映画のセットの中に紛れたのか?
俺、もしかして映像化デビューとかしちゃう?
……とか、ぬか喜びはやめよう。どうせオークの役とかになりそうだ。
自虐的にブツブツ独り言を言いながら、建物の中を歩き始めた。
奥の方にやけに人だかりができている。
近寄ってみるとカウンターがあり、男たちが何かの申し込みをしているようだった。
「え、これって本当にダンジョンとか行っちゃう感じ?」
考えているうちに、行列に並んでしまっていた。
異世界には興味あるけど、ダンジョンとかは勘弁だぞ?
かわいいエルフに出会えるなら日帰りで冒険はしてもいいけど、魔獣は倒せないからスローライフ希望とか言えるのかな?
「次の方、どうぞぉ!!」
艶っぽい声のお姉さんに呼ばれ、ハッと我に返った。
「そこのお兄さん、こっちですよぉ」
ヒラヒラと俺に向かって手招きをしている。
「ひゃいっ」
急に呼ばれて、緊張のあまり声が裏返ってしまった。
こんな美人なお姉さんと話したことなんてない。
ウェーブのかかったロングヘアに、大きなおっぱいの谷間が見える胸元の開いた服。
ぷっくりとした厚い唇は、潤んでいて思わず吸い付きたくなる。
「よよよよよよろしくお願いしまぷ」
噛んだ!!
恥ずかしい。帰りたい。無理。
「あらぁ、お兄さんカッコイイですねぇ」
「そ、それは……流石に、社交辞令だと分かります……」
こんなあからさまなセリフを言われて喜ぶ馬鹿ではない。
「まぁ挨拶なんて、そんなものよねぇ」
悪びれる様子もなく、そのお姉さんが言う。
「ぐっ……」
社交辞令って認めた……。
いきなり勇者の剣でブッ刺された気分だ。
「あの、俺。気付けばここに飛ばされて来たんですけど……ここって何をするところなんですか?」
「あらぁ、選ばれて来たパターンですねぇ。ふんふん、分かります分かります。お兄さん、ご立派だからぁ。じゃあ、説明しますねぇ。まず、私はアナイス。受付を担当しおりますぅ。この世界は健康維持に力を入れておりましてぇ、肥満と診断された方にはダイエットをして頂く施設なんですよぉ」
立派とは良く言ったものだ。
社交辞令とあっさり認めるくらいなら、デブだとはっきり言ってくれても構わない。
「え……じゃあ、ここで申し込みをしたら、俺はダイエットをしないといけないんですか?」
「はいぃ♡」
「……帰ります」
踵を返そうとしたところで背後から首根っこを鷲掴みにされた。長い爪が肉に食い込んで思わず悲鳴をあげそうになってしまった。
美人なのに力が強くてビビる。
「逃げられませんよぅ。はぁい、ここに名前書いてねぇ」
「は……はひ……」
名前を書くまで離してくれなかった。
美人なお姉さんは怖い人だったのだ。ヤ○ザと裏で繋がっているかもしれない。
それで契約させて莫大なお金を請求されるんだ!!!
「俺、まだ学生なんでお金ないですよ?」
「そんなものは頂いておりません。全て国から支給されますからぁ」
「へぇ……。それは凄い」
「では、申し込みも完了しましたのでぇ。担当の者を呼んできますねぇ」
アナイスさんは裏へと消えていった。
じゃあ、この施設は国公認の安心な施設ということか?
ヤ○ザなんて言ってごめんなさいと、心の中で謝っておく。
なんか流れでダイエットをすることになってしまったなぁ。
ダイエットといえば、バッキバキのゴリマッチョがやってる筋トレに、食事制限が鉄板だろ。
痩せたいけど、辛いのは無理だ。
拷問になんて耐えられない。
よく周りを見てみると、なぜ今まで気づかなかったのだろうと思うほど、デブしかいない。
いや、俺も同類だ。
ここにいる人達、全員が本当に痩せるのだろうか。
正直、誰でも痩せられるなら、この世にデブはいないはずだ。
「
アナイスさんに、奥の部屋に呼ばれた。
「失礼します……」
女性と話す機会なんて普段ない俺は、ビビりまくっている。
深くお辞儀をして、顔が見えないように努めた。
「よろしくお願いします!!」
「よろしくねぇ!!」
目の前には二人立っている。両方とも女性だ。
この二人が俺の担当ってわけか。
ゆっくり顔を上げると、目を瞠るような美人系と可愛い系の女の人だった。
「本当なら、一人につき担当も一人なんですけどねぇ。この子たちがどうしてもって言うからねぇ。あなたには二人就いてもらうことになったのよぉ。ごめんなさいねぇ」
アナイスさんに謝られても、まだ施設の仕組みも理解していない俺には「はい、そうですか」としか言いようがない。
しかし、想像と全く違っているのには驚きだ。
本当にこんな可愛い女性がトレーナーなのか?
可愛い顔して物凄く厳しいとか?
初対面の女性を目の前に、更なる緊張と、これから始まるダイエット生活への恐怖に心拍数は上がりっぱなしである。
兎にも角にも、俺がダイエットを始めることは確定した。
痩せるまで逃げられないのだ。
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