美人姉妹の♡ご褒美特典付き♡異世界ダイエット企画。〜痩せたいのに幼馴染のギャルに邪魔されるんだが?〜

亜沙美多郎

第1話 デブとギャル

 重い足取りでようやく自宅に辿り着いた。


 帰り道、バケツで頭から水を浴びせられた俺の濡れっぷりは、季節外れもいいとこだ。

 ……いや、夏ならいいのかという話になってしまうが、そういうことではない。

 今はまだ五月。早く温かいシャワーを浴びないと風邪を引いてしまう。


 大学に入ったばかりのアオハルを夢見るお年頃……。誰もが今しかない青春を楽しんでいる。

 そんな時にこの俺、高城悠伍の情けなさたるや……。

 青春とは無縁の生活を送るのも、かれこれ四年目に突入していた。


 自宅に着くなり服を脱ぎ捨てる。

 玄関にドサッと水分を含んだ服の鈍い音がした。


 とりあえずそのまま風呂へと移動すると、頭からシャワーを浴びる。


 鏡に映る巨体が曇っていく。

 早く消してくれ。こんな体……。


 体重は三桁を超えている。

 一度トイレの便座を壊したことがある。

 お風呂に入れば、溜めていた湯が半分減る。

 そんなデブのテンプレあるあるは大体網羅していた。


「はぁ……。やっと体が温まってきた」

 今日はまた盛大にやられた。


 大学生になれば、あいつらから解放されると思っていた。

 高校生の頃、散々俺を虐めていた三人組。

 しかし俺の期待は脆く崩れ落ちた。

 三人組のうちの一人である大路裕輝おおじひろきが、たまたま同じ大学の同じ学部だったのだ。

 それを他の二人にも知らされ、講義が終わり次第呼び出される。

 

 今日は『巨体全域をびしょ濡れにするにはバケツ何杯必要か』と言う実験をされた。

 全く意味が分からないが、逆らうと殴る蹴るだ。

 痛いのよりは冷たい方がマシだと我慢した。

 この訳のわからない遊びにいつまで付き合えばいいのか。

 金を要求されないだけ、まだマシと思うべきなのか。


 嘲笑う三人の顔が脳裏を過ぎる


「なんだよ。面白がりやがって」


 デブでも風邪は引くし、腹だって下す。

 俺はデブの中でもデリケートなデブなんだ。

 自分で言っておいて嘲笑すると、風呂から出てその足でキッチンへと向かう。


 お菓子と炭酸ジュースを両手で抱え、二階の自室へと向かった。


「あーー! 悠伍やっと帰ってきたぁ!」

「はぁ? 杏奈、なんでいるんだよ? どこから入ったん?」

「悠伍さぁ、窓の鍵閉め忘れてたよん♪」

「よん♪ じゃないだろ。それ、不法侵入だからな」

「ぶっ!! ウケる!! 悠伍に人権なんてねーから」


 ケラケラ笑ってるこいつは、隣に住んでいる幼馴染。

 杏奈はいつだってこんな調子だ。


 見た目はいわゆる“ギャル”。

 同い年で大学も同じ。

 長い髪は明るく染めていて、普段穿いてるスカートやショートパンツは下着が見えるほど短くて、爪はド派手に長い。

 額に手を当て、ピースするのが癖だ。

 鼻にかかった声で「イエーイ」とかすぐに言う。意味わからん。


「お菓子待ってましたぁ!」

「いや、これは俺のだから」

「悠伍のものはウチのものでしょ! イエーイ。食べよ食べよ」

「ちょっとしか、やらん」

「はいはい、言ってろし」


 これが日常。こんなやり取りを繰り返してる。

 悔しいが、普通に喋れるのは杏奈だけだ。

 

 俺が今でも虐められているのは知っている。

 俺とは正反対で友達の多い杏奈は、「ウチからやめろって言うよ」と言ってくるが、関わるなと止めている。


 だから大学では一切話したりしない。


「今日は何されたの?」

 スナック菓子を食べながら杏奈が聞いてくる。

「水かけられた」

「はぁ? マジむかつくー。あいつら、悠伍にしか偉そうに出来ないからだよ? 高校の時とか、先輩にヘラヘラ媚び売ってたの、ウチ知ってるし」


 俺は言えないようなことでも、構わずズバズバ言う性格は羨ましいと思う。

 杏奈みたいな性格だったら、虐められずに済んだのかもしれない。


 杏奈は俺のお菓子を満足するまで食べた後、友達から遊びの誘いが来て帰っていった。


「本当に、やりたい放題だな」

 空になったスナック菓子をゴミ箱に捨てる。

 窓から窓へと最短距離で帰る杏奈を、呆れ顔で見送るのも毎度お馴染みだ。

 オーバーサイズのスウェットの裾からショートパンツがチラリと見えた。

「へへーんだ。パンツ見えると思ったっしょ?」

「思ってない!!」


 なーんだ。とブツブツ言いながら身軽に自分の部屋に飛び移って行く。


 急に静まり返った部屋で、俺は次のお菓子の袋を開け「今度は独り占めできる」と呟くと、自分だけの咀嚼音だけがボリボリと鳴った。


 食欲しかないわけではない。

 好きな人とか作ってみたいし、なんか色々遊びに行ったりしてみたい。

 でも誰が俺なんかと一緒にいたいもんか。

 そう思うと希望は全て微塵に散る。


「録画してた深夜アニメ観よ」

 テレビのスイッチを入れると、突然、目も開けられないほどの光が差した。


「うわ!! 眩しい」

 思わず目を閉じると、この巨体が宙に浮いた……気がした。

 

 閉じた目越しに、眩しい光が落ち着いたと認識すると、薄らと目を開け様子を見る。

 テレビが壊れたのかと思ったが、状況は予想を遥かに超えていた。


 全く知らない場所に移動していたのだ。


「え? ここ、どこ?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る