第19話

「あったよ。これかな?」

 私は、床下を這って取って来た万年筆を、ゴイチに見せた。

 本体は元の色も分からないほど劣化して、クリップなど金属の部分は錆びていた。キャップも泥が詰まって、外すことが出来るかどうか分からなかった。

 しかし、ゴイチは目を輝かせた。

『何処にあったの?』

「あのおじさんが居た所」

 何故、其処にあったのかは分からない。

『お父ちゃんの万年筆だ。やっと、見付けられた。嬉しいなぁ、嬉しいなぁ』

 喜ぶゴイチの姿が、足の方から光の粒子のようなものに変化して天に昇っていく。

『ありがとう。タツヤ君、お姉ちゃん……』

 ゴイチの手に掴まれ、宙に浮いたように見えていた万年筆は、ゴイチの姿が消えると共にパタリと床に落ちた。 

 万年筆への未練が無くなり、ゴイチは満足そうに天へと還って行った。地縛から解かれたのだ。

 この万年筆は、庭の隅にでも埋めようかと思う。


 しかし、床下を匍匐ほふく前進したので、パジャマも手足も汚れてしまった。シャワーを浴びて着替えなくては。

 あの人影は、何処へ消えてしまったのだろう。

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