第13話
「お母さんが駄目って言ったのに、頼まれちゃったから、相談できなかったんだ」
タツヤは、あの昼寝の日に遭遇してから、ゴイチとずっと関わって来たという。
「それで、毎日夜中に探しているのだけど、手掛かりが無くて」
「なるほど。お父さんの万年筆を探しているのね」
ゴイチは頷く。
「手掛かりかぁ。そうだ、失くした時のことを思い出してみて」
私は、ゴイチと名乗る少年をよく観察した。
小さな襟の付いた制服の様な衣類を身に着け、刈り込んだ頭に、つばの付いた帽子を被っている。帽子と衣類に見覚えがある。日本史の教科書で見た物に似ている気がした。
「君の服装は、現代の物じゃなくて、昔の服のように見える」
ゴイチは、俯いて、自分の服装を確認した。
『これは、国民学校の制服だよ』
国民学校は昭和の初め頃発足したと、前回の授業で習った。
「戦争があった時代の学校だね」
戦争という単語を聞いたゴイチは、目を見開いた。何かを考えているようだ。
『戦争?……そうだ、僕は』
――思い出した。空襲警報の音。鼓膜が破けるような爆発音の後、家が壊れて下敷きになって、火の手が回った。重くて熱くて痛くて。隣で倒れているお母ちゃんの体の下には、血が一杯溜まっていた。
「お母ちゃん、お母ちゃん」
声にならない声で、何度も呼び掛けたけれど、お母ちゃんは動かなかった――
『空襲でお母ちゃんが、死んじゃった』
ゴイチは泣き出した。
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