第12話

 話し声が止んだ。

「タツヤ、誰と話しているの?」 

 灯りを落とした部屋にタツヤが起きている気配がする。

「……何でもない」

「何でもない事ないでしょう」

 私は、照明のスイッチを入れた。

『やめろ! 入って来るな』

 知らない子供の声が、頭の中に聞こえた。

 タツヤは、困ったような顔をして、背中にその子を隠した。

「お姉ちゃん、やめて」

「弟が衰弱しているのを、見ている訳にはいかないの!」

 私は、強い口調でその子に近付いた。

 透き通っている。有り得ない話だが、その子を通して、後ろの窓が見えた。年の頃は、タツヤと同じ位だろうか。

 私よりずっと背が低いのに、その子の透き通った手がグンと伸びて、私の首を締め上げた。

「ぐっ、うっ……」


(息が出来ない!)


 振りほどこうにも、締め上げる手は雲のようで、私の手は空をがむしゃらに掴んだ。

「やめてよ! ゴイチ君! お姉ちゃんが死んじゃう」

『こいつが、邪魔するからだ』

「……な、何、を、して、いるのか、……知り、たいだけ」

 私は、苦しい息の下で訴える。

「お姉ちゃんは、邪魔なんかしないよ。ちゃんと話せば、分かってくれるよ! お姉ちゃんにも、君が見えているんだよ」

『僕が見えている?』

 私は、懸命に頷いて見せた。

 ようやく締め上げる手が離れた。

「げほっ、げほっ、……死ぬかと思った」

 私は、首の辺りを擦った。

 タツヤは、こんな恐ろしい子と毎晩会っていたのか。知ったからには、私が守らねばと思う。

「ゴイチ君っていうのね。良かったら、私にも話してくれないかな」


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