第10話

「まず、何を探しているのか思い出したらどうかな」

『思い出す?』

「そうさ。大切な物なんでしょ? どんな風に大切だったのか、とか」

『大切な物……』

 ゴイチは、服の胸の辺りを掴んで記憶を辿っているようだ。

『……あ、万年筆』

「万年筆?」

『思い出した。お父ちゃんの万年筆だ! いつも、胸のポケットに肌身離さず持っていた』

 胸のポケットの辺りを押さえる。

『此処にいつも、肌身離さず持っていたんだ』

「探す物が、分かって良かったね」

 ゴイチの顔は、幾分、明るくなった気がする。

『タツヤ君のお蔭だ。ありがとう』

「でもさ、僕達は引っ越して来たばかり。その時に、万年筆は落ちていなかったし、見掛けもしなかったよ」

『いいから、探して!』

 その一点張りなので、タツヤは無駄だと思いながら作業を続けた。

「机の引き出しは、全部見たよ」

「床にも落ちていなかった」

箪笥たんすの中身も全部出してみた」

 ゴイチは、タツヤが言う順番に、自分でもう一度確認した。

『……』

「ねぇ、僕は学校があるからもう寝なくちゃ。明日、他の場所を探してみようよ。だめかな?」

 ようやく、ゴイチは納得して姿を消した。


 次の日も次の日も、午前二時になると、ゴイチは、やって来た。

 タツヤは睡眠不足の所為か、頭がボーッとして、学校で授業中に先生に何度も注意された。


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