第23話 自称姫様と足湯で遊ぶ

 夕暮れ時の帰路にて。


 二人で過ごしたお祭りは、実際に一緒に居た時間は少ないけれど、自称姫様から常に監視されていたのでずっと一緒だった。


 充実した時間が過ごせたのは自称姫様のおかげなので、感謝しておく。


 「今日はお祭りに誘っていただいてありがとうございました。楽しかったです」

 「それは良かったわ。わたくしの用事で色々と働いてもらったけれど、あなたと一緒にお祭りに参加して、前回より楽しめたから、こちらこそありがとう」


 私と自称姫様はお互いに感謝し合い、お祭りで美味しかったものや楽しかったことを話しながら、家に帰った。


***


 魔装甲馬車を秘密の場所に隠して自称姫様と別れた後、家に帰った。


 「!?」


 玄関の靴置き場で、気づいてしまった。

 知らない靴がある。


 「・・・新しい男か」


 姉から聞いた通り、母が5年ごとに新しい男を探して、今日のお祭りで男を見つけてお持ち帰りしたのだろう。

 認識偽装の魔術などを使って隠密行動をしながら、家の奥の様子をうかがう。


 「~~~~~~~!!」


 わずかに大人の夜のスポーツの音が聞こえた。

 姉が母の部屋の前に居て、ちょっと扉を開けて覗き見をしているのを目撃してしまった。


 見なかったことにして、家の外に出る。


 「・・・散歩しよう」


 あの状況下で帰宅して自分の部屋で寝るのはやめておこう。

 私は5歳なので、何も知らないふりでいいが、大人たちは邪魔をされたら嫌な気持ちになるだろう。・・・嫌な気持ちにならない人たちについてはノーコメント。


 とにかく、些細な積み重ねからトラブルが起きて疲れるだけだ。

 それなら帰宅せずに家の外で過ごすほうがマシだ。


 「・・・どこに行こうか」


 友達や師匠の家に行くことも考えたが、お祭りだから浮かれて大人の夜のスポーツをしてるところを見てしまう可能性もある。

 色々考えて、秘密の場所に隠してある魔装甲馬車に行くことにした。


***


 魔術の認識偽装や、物理的な障害を乗り越えつつ、魔装甲馬車に辿り着く。

 知らない人に盗まれないように、魔装甲馬車にかけておいた封印を解こうと思ったが、既に解除されている。


 魔装甲馬車は、私と自称姫様しか使えないように作ったので、自称姫様が居るようだ。馬車の扉をノックする。


 「こんばんは。お邪魔してもいいですか、姫様」

 「・・・いいわ」


 自称姫様から許可をもらって、魔装甲馬車の中に入る。

 中では、自称姫様がタライを使って足湯に入っていた。


 「おっと、お邪魔でしたか」

 「いいから。どうせなら、あなたも入っていきなさい。温まるわ」


 年末年始は寒くて冷えるから、足湯に入れるのは助かる。

 魔装甲馬車の座席の移動機能で、座席は3席横並び接続状態で、姫様の対面に座る。


 「ありがとうございます。失礼します」

 「どうぞ」


 私は靴と靴下を脱いで、足湯に入った。

 足の先から全身に、じわじわと温まっていく。


 「ふふ」

 「うわっ」


 自称姫様が足湯ではしゃいで、ばちゃばちゃと湯をかけられる。

 もちろん【紳士バリア】魔術で弾いたが、自称姫様もお祭りで浮かれているのかもしれない。


 「・・・あら?やり返さないの?」

 「・・・やり返すことを期待されてましたか。じゃあ、やり返しますね」


 私も足湯で足を振り、自称姫様に湯をかける。

 もちろん【淑女バリア】魔術で弾かれる。


 「きゃー・・・あはは」


 そこから、自称姫様と湯をかけあって、湯がめちゃくちゃ減った。


 「・・・やり過ぎたわ」

 「・・・やり過ぎましたね」


 もう、足首くらいしか湯が残っていなかった。


 「まあ、こういうこともあるわ」

 「動けば温まりますから、大丈夫です」


 私と自称姫様は多少冷静になって、言い訳をしながら改めて足湯に入る。

 ・・・馬車の内部は、あちこち湯が飛び散って大惨事である。


 「・・・セバスチャン、わたくしが水を浮かすから、掃除して」

 「・・・わかりました」


 後先考えないで、はしゃぐのは楽しい・・・後始末は大変だけど。

 自称姫様がクッションの水を魔術で浮かしたりしながら、私が雑巾を使って掃除した。


 「今日はお祭りだから、浮かれてしまったわ」

 「浮かれていいですよ。たまには休むのも大事です」


 自称姫様は、ちょっと落ち込んでいるようだ。

 お祭りの日に落ち込むのはもったいないので、休みの話をした。

 そうしたら、自称姫様はこちらを指さした。


 「そうね。あなたも一緒に休みなさい。あなた、休んでないでしょう」

 「!?」


 休んでいないのがばれた。

 周りの皆が才能に溢れているので、休みを与えられても魔術の勉強をしていたし、普段から【紳士バリア】の改良もしていた。


 「ほら、この場所なら色々と安全だから、バリアを解きなさい。わたくしも解くから」

 「はい。わかりました」


 私と自称姫様は、【紳士バリア】と【淑女バリア】の魔術を解いた。


 「・・・はぁ」

 「・・・ふぅ」


 狙われ続ける状況に晒されて、常にバリアを使って気を張っていることばかりだった。バリアを解いたことで、私と自称姫様は、やっとリラックスできた。


 「・・・うーん」

 「・・・ん」


 リラックスして、足湯で温まって、眠くなってくる。

 私と自称姫様はどちらも眠くて、頭がゆらゆらと舟をこぐ。


 「・・・あ・・・姫様・・・」

 「・・・ん」


 自称姫様が前に倒れて足湯に突っ込みそうだから抱えて座席に寝かせる。

 私も眠くて、座席に座って寝た。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

生きづらい人間の幸福探求~やりたいことがぶつかり合って思い通りにならないから楽しい寄り道をする人生~ ダルミョーン @darumyo_n

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ