第18話 ティマヤのメイド服のスカートは膝までか足首までか論争
ティマヤが、自称姫様のメイドになったので、メイド服を着てもらうことになった。もちろん私は執事服を着ている。
ティマヤのメイド服を用意してもらうため、私の家に向かった。
「あら、姫様。いらっしゃいませ」
「こちらのティマヤにメイド服を用意してもらおうと思って」
「よろしくお願いします」
「では、娘に用意させます」
どうやら、私の姉がメイド服を用意するようだ。
母が呼ぶと、部屋の奥から、橙色の頭がひょっこりと現れる。
「仕事」
「ティマヤです。よろしくお願いします」
「任せて」
無表情で腰に手を当てて、空色の目をキラーンとさせるアン姉。
アン姉はティマヤを連れて奥の部屋に向かった。
自称姫様もついていって、扉の近くで何か話している。
「どうしても、着なきゃ、だめですか」
「メイドなのだからメイド服を着てほしいわ」
「うう、スカートとか動きづらい・・・」
そういえば、ティマヤは短パンを履いている姿しか見たことがなかった。
スカートを履かない理由は、運動性能だったのか。
自称姫様の動きを思い出しても、膝にひっかかったり、空気抵抗が強くて動きづらそうではある。
そんなことを考えていたら、母が話しかけてきた。
「メイド服の対価は労働でいい?」
「はい。今回も私が働くということで」
「よろしくね」
この村の内部なら、労働や物々交換で回るのが基本になっていることを最近知った。近くの子供にひどいことする国を覇王が滅ぼして放置したから、紙幣が無価値な紙切れになったという話が理由かもしれない。
村に住む子供の衣食住は保証されていて、何もしない子供は16歳の成人までは魔樹の実と薬草の牛乳煮込みスープを食べることになる。
何かを求めるなら対価が必要で、労働をする子供だけ豆や肉などにありつけるので、だいたい家の手伝いをするようになる。
自称姫様からは労働の褒美に豆をもらえるので、だいたい私が労働してる。
たぶん自称姫様も労働や物々交換をしているのだろう。
「わたくしは労働をしていないわ」
「え?」
「ちょっとお話をするだけよ」
「な、なるほど」
自称姫様から直接回答をいただいた。
気づかぬうちに口に出していたのかもしれない。
労働をしていないなら、物々交換か?
いや、ちょっとお話をするだけ、と言っていた。
儲け話とかで商人から投資でも受けたのだろうか?
・・・自称姫様ならありえそう。
「セバスチャン。あなた、まだ何か考えているわね?」
「すいません。余計なことを考えていました」
「成人後は護衛もしてもらいたいから、周囲の警戒とか練習しておきなさい」
「はい」
自称姫様に注意されて、命令も受けたので、思考を中断した。
その後は周囲の警戒を練習した。
***
途中で、一度ティマヤのメイド服が完成したように思えたが、どうやら自称姫様は気に食わなかったらしい。
「このロングスカートの3段フリルは何?」
「ティマヤが動きやすくしたい。だからフリルのラインで着脱式。ミニスカも可能」
「・・・(無言でティマヤのスカートをミニスカにする自称姫様)」
ミニスカメイドのティマヤが、動きやすさを確かめるために足を大きく動かす。
「お、いい感じ!ありがとアンちゃん」
「どういたしまして」
「却下」
「「えー」」
「・・・(小声)ティマヤ、下着が見えたわ」
「!?・・・やっぱりやめる!!ごめんね」
「そんなー」
私はスパッツとか使えばいいと考えたけど、話には入らずに周囲の警戒練習をしておいた。
***
その後も、自称姫様の足首までロングスカートの主張と、ティマヤの膝までスカートの主張がぶつかり合った。
私の姉は二人の間で挟まれて、度重なる仕様変更と機能追加で疲れたのか、足首までロングスカートのメイド服と、膝までスカートのメイド服をそれぞれ作って離脱した。
・・・メイド服の仕様変更代や機能追加代などで、私への労働請求が増えた。
迷惑をかけているのはこちらなので、母に謝りながら、請求書を受け取った。
後日返済の労働をしなければ。
「わたくしのメイドなのですから、足首までロングスカートのメイド服を着なさい」
「嫌だ動きづらい!!膝までスカートのメイド服で許して!!」
「主人であるわたくしが足首までロングスカートなのですよ。ティマヤだけ膝までスカートなんて許しません」
「じゃあ姫様も膝までスカートにしなよ!!」
「嫌です。はしたない」
「私だって嫌だよ動きづらいの!!」
まだやってる・・・もう夜なんだが。
電灯で明るいから気づいてないのか?
覇王アーク様の雷の関係で、覇王国では街灯があるから夜道も安心だけど、夜になっても帰ってこない子供は親が心配するんだ。
そろそろ帰ってもらわないと。
「あのー。もうそろそろ───」
「セバスチャン。あなたはメイドがロングスカートのほうがいいですよね?」
「膝までスカートでいいよね?」
自称姫様とティマヤに挟まれた。
どっちの味方をしてもめんどくさくなるやつ。
・・・ここは第三の選択肢、自称姫様のプライドに訴えてみるか。
「姫様の命令が通らないメイドで、本当にいいんですか?」
「それは・・・」
忠義は、味方をするだけじゃない。
厳しいことを言うのも忠義だろう。
「ティマヤは、姫様が契約し、メイドの教育も姫様がやると言っていたはずです」
「・・・そうですね」
「であれば、姫様の命令を聞くように、今後時間をかけてメイドの教育をすればいいだけでしょう。もう夜なので、後日にしてください」
「!?・・・気づきませんでした」
自称姫様は外を見て驚いている。ティマヤも驚いていた。
気づいていなかったらしい。
「・・・今日は夜も遅いので、また後日ティマヤのメイド服について教育します」
「ふん。あたしは膝までスカートのメイド服を着るから」
二人は明日以降も喧嘩しそうだ。
とにかく今日は自称姫様とティマヤを家まで送って、ゆっくり休むことにした。
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