第17話 メイド教育権を巡る主従のバトル(敗北は確定的に明らか)

 自称姫様クラウディア・プレデターブラッドと真の主従関係を結んだ執事セバスチャンになったが、この関係は永遠ではない。

 自称姫様と私のやりたいことがぶつかったときは戦うことになるだろう。


 自称姫様は今のところ配下をもっと増やして、姫としての立場や環境、家などを整えたいらしい。場合によっては建国も考えているようだ。


 「わたくしが見つけた王子様次第では、婿入りしてもらう可能性もあるし。そのために自称姫様ではなく、姫様になることも可能にしておきたいの」


 私のほうは、世界をおもちゃにして遊びたいのはあるけれど、それはやりたいことの一つでしかない。


 子供のうちに幼馴染を作りたい。

 ちょっと頑張れば、ウェーブがきれいな桃紫藍色の複雑な髪を持つ、右目を隠したメカクレ美幼女の自称姫様を見つけられたのだから、もうちょっと頑張ってかわいい女の子を見つけておいても損はないだろう。・・・まあ、あれは私が見つかって捕まったというほうが正しいが。


 とにかく、かわいい女の子を見つける寄り道は楽しいに決まっている!!

 自称姫様も配下を増やしたいみたいだから、今は主従関係が続きそうだ。


 損得勘定で考えると、一人ではできないことのために協力者が欲しいとか、私がやりたいことに人類が巻き込まれないようにする友人が欲しいというのもある。


 「ちょっと世界をおもちゃにしたいだけで、人類に滅んでほしいわけじゃないんだ」


 邪神かな?・・・余計なことを考えた。

 幼馴染のことを考えよう。


 幼馴染にも、色々な種類がある。

 結婚の約束をしてる男女については、実例のエグチとティマヤによって目の前でいちゃいちゃを見せつけられるのでちょっと距離を置きたい。

 魔術を習いに来て、今日も見ることになった。


 「エグチ」

 「ティマヤ」


 うんうん。仲良しカップルが周りに見せつけると気持ちいいよね。

 おっとー。ティマヤが首をこてんとして、エグチの肩に頭を乗せてぐりぐりだー。

 エグチはティマヤの頭を撫でてニッコニコだ!!あっ、ティマヤがエグチに抱き着いた!!おおおおお!!


 ・・・見せられる側にとっては気まずいというか、同じ空間に居ることで自分が邪魔者のように感じて居心地が悪くて出ていきたくなってしまうけど。

 私の仕える自称姫様が、ごくわずかにちょっとだけ少し不機嫌そうな顔をしている。目元がほんのちょっぴり不機嫌に見える。


 「セバスチャン。ここでは魔術を習うという話だったはずだけど、あの二人は何をしているの?」

 「・・・あの二人は、カップルになってからはいつもいちゃいちゃしてますね」

 「ここでいちゃいちゃする必要はあるの?」

 「師匠が注意していたこともありましたが、諦めましたね」

 「わたくしが注意するわ」

 「あ、姫様」


 シャンディ師匠が受けたあの魔術について忠告する前に自称姫様が行ってしまった。慌てて追いかける。

 自称姫様は、頬をつんつんし合っているエグチとティマヤに話しかけた。


 「あなたたち」

 「「はい?」」

 「ここは魔術を習うのでしょう。いちゃいちゃするなら外で───」

 「じゃあ練習【パンチラ】」

 「あっ!!エグチ!!」

 「!?」


 自称姫様の説教途中で、エグチは杖を取り出して【パンチラ】魔術を使った。

 ティマヤが、わるいことしたエグチに怒ってつかみかかったが、既に魔術は発動していた。


 エグチは生まれた時から体内に魔力機関を持っていたため、私よりも早く魔術の術式や制御の練習をしていた。

 エロ系統の魔術を習得したいらしいが、年齢を理由に足踏みして抜け道を探し、精密操作練習から“パンチラのチラリズムの探求”をしたようだ。

 結果として、シャンディ師匠に対して使われたエグチの【パンチラ】魔術は、シャンディ師匠の対抗する制御をかわしきってパンチラを成功させるほどだった。


 その【パンチラ】魔術をかけられた自称姫様のスカートが、見えるか見えないかのギリギリを攻めるように上下する───!!


 「きゃ」

 「姫様!!」


 自称姫様はスカートの前側を抑えたのが見えたので、私は姫様のスカートの後ろ側を抑えた。

 ・・・というか今、自称姫様のかわいい声がちょっとだけ聞こえたような。

 自称姫様の顔をうかがうと、既に取り繕っているが、頬が少し赤い。


 残念!!きっとかわいい顔を見逃した!!


 「ちくしょう。ティマヤに顔を抑えられてるせいで何も見えない」

 「あたしという彼女が居るのに!!反省しなさいエグチ!!」


 ティマヤの両手で顔を抑えられたエグチは、それでもなんとかパンチラを拝もうと床を転がったが、手を離さないティマヤが馬乗りになって阻止された。


 「往生際が悪い!!」

 「あ!!杖が!!」


 馬乗りになったティマヤがエグチの杖を持つ手を足で踏み、杖を手放させた。

 そこで、【パンチラ】魔術が強制終了し、上下していた自称姫様のスカートが下がる。私も自称姫様のスカートを手放す。


 自称姫様は、うつ伏せのエグチを見下ろして、おもむろにエグチの頭を踏みつけた。


 「・・・よくもやってくれたわね」

 「そうだよ!!謝ってエグチ!!」

 「ありがとうございます!!ありがとうございます!!」

 「「は?」」


 そういえばエグチは変態だった。


 「姫様、おそらくそんなことをしてもエグチは喜ぶだけですよ」

 「なんですって?」

 「そうなのエグチ?」

 「・・・なんでばらすんだよ親友ううううう」

 「!?」


 こんな状況で、親友扱いはまずい。

 エグチとティマヤがくっついたときに感謝されて一方的に親友にされてたけど、それがここで裏目に出た。


 エグチの頭から足を離してこちらを向いた姫様は、少しにらんでいる。

 誤解があるので、弁明しなければ。


 「セバスチャン、あなた、こんな変態を親友にしたの?」

 「いえ違います姫様。親友にしたわけではないです。そもそも最初に友達になったときも、エグチが肩を組んできて、友達になろうと言ってきたから友達になっただけです。親友も一方的で、エグチとティマヤがくっついた件で───」


 自称姫様に対して、とにかく必死に弁明した。

 私とエグチの出会いから今日まで起きたこと、エグチが【パンチラ】魔術を練習していたことや、姫様に【パンチラ】魔術のことを忠告しようとしたことなど。


 「───だから」

 「わかった。あなたの話はわかったから、離れて」


 気づかぬうちに、自称姫様の至近距離まで近づいてしまっていた。

 手で頭をぽんぽんされて、気づいた。


 「!?すいません」

 「ふぅ・・・」


 私は急いで自称姫様から離れた。

 自称姫様は、少し笑っていた。

 エグチたちのほうを向いた自称姫様は、改めて話を始めた。


 「さて、どうやら足蹴にされることは、あなたにとって罰ではないようね?エグチとかいう変態さん?」

 「ありがとうございます!!ありがとうございます!!」

 「エグチ・・・」


 ティマヤが悲しそうな顔でエグチの醜態を見ている。


 「あなたはティマヤさん、と言ったかしら」

 「はい。ティマヤトリムアークです」

 「エグチに罰を与えるために、ティマヤにはわたくしのメイドになってもらいたいの」

 「え?なんで?」

 「わたくしの許可がなければ、ティマヤとエグチがいちゃいちゃできないようにするためよ」

 「そんな!?」

 「うわああああああああああああああ!?」


 ティマヤとエグチはそれぞれ悲鳴を上げた。

 それを見て、自称姫様はにっこり笑う。


 「やはり、これが罰としてよさそうね」

 「それはさすがに・・・」

 「おれからティマヤを奪わないでくれえええええ!!」


 マム=ティマヤはエグチのほうを見て、あたしがいなきゃ、みたいな顔をしている。エグチは叫ぶだけだ。

 それを見て、ティマヤの耳元に口を近づける自称姫様。


 「・・・(小声)ティマヤ、これはあなたたちのためでもあるの」

 「?」

 「・・・(小声)ずっと一緒に居たら飽きて、あなた以外の女に手を出しそうでしょ?」

 「そんな!?」

 「・・・(小声)わたくしのメイドになっても、魔術を学ぶときに毎日エグチと会えるから安心して」

 「それは・・・」

 「・・・(小声)わたくしのメイドになれば、エグチをがっちり捕まえておけるように、ティマヤに色々教えられるわ」

 「・・・」


 自称姫様がティマヤの耳元にごにょごにょ言って、交渉が成立したらしい。


 「それじゃあ、ティマヤはわたくしのメイドとして、連れて行くわね」

 「毎日会えるから、またねエグチ」

 「ティマヤあぁぁぁぁぁ」


 ティマヤは、自称姫様のメイドになった。


***


 その後、自称姫様とティマヤを荷車で運びつつメイド教育権について話した。


 「メイドの教育については、執事の私が担当するということでいいですか?」

 「いいえ。ティマヤについてはわたくしが担当しますわ」

 「な、なぜ・・・」

 「わたくしが教育することも契約内容に入っていますから」

 「はい。お願いします姫様」


 メイド教育権について、私は戦う前に敗北した。

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