第16話 セバスチャン、自称姫様と腹を割って話す
自称姫様クラウディア・プレデターブラッドの執事、セバスチャンになることが決まった後、当然移動手段を私が手配することになりました。
何のツテも権力も金もない状態では馬車とかを貸してもらえるはずもなく、労働を対価に、人が一人運べそうな箱に車輪がついた荷車を貸してもらいました。
「・・・直接座ると痛そうだから、敷物が欲しいわ」
「すいません姫様。今用意します」
母から敷物を借りて、荷車に敷いた。
その際、母から助言を受けて、踏み台も用意した。
「ありがとう。いつか馬車を手配できるように、一緒に頑張りましょうね」
「はい」
どうやら、私一人でなんでもというわけではなさそうで、どちらかというと良い方の雇い主だと思った。
ウェーブがきれいな桃紫藍色の複雑な髪を持つ、右目を隠したメカクレ美幼女の自称姫様が雇い主なのだから、良いに決まっているという考えが頭の片隅から主張する。同時に、少しもやもやしている自分に気づいた。
「セバスチャン、言いたいことがあるなら聞くわ」
「今はあまり時間がないので、姫様を家まで送る際に言います」
「わかったわ。今は魔術の師匠のところまで行きましょう」
「はい」
自称姫様が乗った荷台を引いて、シャンディ師匠のところに向かう。
そして、シャンディ師匠に自称姫様を紹介した。
「わたくしはいつか、王子様を見つけます。だから姫様と呼んでください」
「・・・ええ。姫様と呼びますね。それで何の御用ですか」
「わたくしに魔術を教えてください」
「そう、ですね。教えたほうがいいかもしれません。絶対にやりたいことはありますか」
「わたくしの王子様を絶対見つけます」
「わかりました。これから私が師匠です」
「よろしくお願いします」
自称姫様は、シャンディ師匠の弟子になった。
今日のところは、自称姫様の家までの距離を考えて、注意事項や首飾りだけで終わった。魔術を習うのは明日以降になる。
自称姫様が乗った荷台を引いて、家まで送る。
私の住む村から離れたところで、自称姫様が言った。
「それで、セバスチャン。わたくしに言いたいことがあるなら聞くわ」
「自称姫様」
「ふ、ふふっ、ふふふふふ・・・ふふっ、ふふふふふっ、あはははははははっ」
自称姫様は、堪えようとして堪えきれずに、楽しそうにしばらく笑っていた。
まだ呼んだだけで、本題に入っていないので、自称姫様が落ち着くのを待つ。
しばらくして、落ち着いた姫様は、いつもより表情が豊かな気がした。
「ふふっ、痛いところを突かれちゃって、笑っちゃった」
「会ったときからずっと思っていました。自称姫様」
「でしょうね。今のわたくしはその通りだもの。まだ王子様を見つけていないから」
「本題に入ってもいいですか?」
「ええ。どうぞ。いい機会だから、正直に話しましょう」
自称姫様に対して、少しもやもやしていることを、言葉にしてみる。
「魔術の師弟関係を結んだときに気づいたと思いますが、自称姫様がやりたいことがあるように、私にもやりたいことがあります」
「ふふ・・・ええ、そうでしょうね」
「だから、私がやりたいことが自称姫様とぶつかったら、そのときは執事を辞めることになるかもしれません」
「それはないわ」
自称姫様は、断言する。
「なぜ、です」
「わたくしとぶつかるなら、わたくしはあなたを排除して王子様を見つけますわ」
ごく自然に、排除することを宣言された。
たぶん、執事を辞める許可はもらえず、そのまま排除されるのだろう。
「だから、何の問題もありませんわ」
「・・・つまり、私は、自称姫様に必ず負けるということですか」
「その通りよ。だってあなたは、迷ってわたくしに捧げることを選んだもの」
「捧げる?」
「そうよ。あなたはわたくしの執事になって時間を捧げることを選んだでしょう。あなたのやりたいことより他人を優先した。そんなあなたにわたくしが負けると思いますか?」
「・・・思わない。自称姫様が負ける姿が想像つかない」
そうか。
この自称姫様に勝てないなら、わたしのやりたいことはできないのか。
「腹を割って話しましょう。あなたのやりたいことは何?セバスチャン」
「世界をおもちゃにして遊びたい・・・違う。あの空に輝く星の川を走ってみたい」
「ふふ。いいわよ。世界をおもちゃにして遊んでも」
「え?」
自称姫様は、すごいことを言った。
「わたくしとぶつかるなら排除しますけれど、わたくしとぶつからないなら許しますわ」
「世界をおもちゃにするのって、わるいことなんじゃ?」
「わたくしがわがままを通すのは、世界をおもちゃにすることと同じですわ。あなたは、このわたくしの執事ですよ?わたくしを追い抜くつもりでついてこないなら、置いていきますわ」
「ついていきます」
「セバスチャン、今のあなたでは足りませんわ。もっと、です」
「追い抜くつもりでついていきます!!」
「いいわ。ついてきなさい」
自称姫様を家まで送り届け、真の主従関係を結んだ。
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