第15話 執事として、セバスチャンになりなさい

 幼馴染を作ろうと遠出した結果、幼馴染とかいう枠からはみ出るどころか枠を壊しそうな自称姫様に捕まってしまった哀れな私は、自称姫様の執事ということで名前を変えられてしまいそうです。


 私の名前は答えるつもりはありませんでした、が。


 「わたくしは、クラウディア・プレデターブラッド、になるわ。あなたは?」

 「・・・ドゥリンアーク、です」


 相手が名乗ったのに、こちらが名乗らないことは、できなかった。


 「ドゥリンアーク?・・・執事として、セバスチャンになりなさい」

 「いや、親からもらった名前なので───」

 「では、親を説得します」

 「・・・・・」


 自分の名前にこだわりや愛着をまだ持っていないとき、名前を変えられそうになっても抵抗があんまりなくて、返答に困る。

 その隙を見逃すような自称姫様ではなく。


 「親を説得するだけでよさそうね」

 「!・・・そっちは」

 「あなたの家はこの先なのでしょう?」

 「!?」

 「その反応で確信したわ」


 手玉に取られている。

 だが、姫様を自称する人であることを考えると、本当に姫様になりそうなパワーを感じて、ちょっとわくわくする。


 しかし、それは外野から見た場合であって、自分が巻き込まれて振り回されるということを考えると、憂鬱になる。

 自称姫様の後ろに、ちょっと離れてついていきながら、話をする。


 「あの、親が拒否したら諦めてもらえたり・・・」

 「いいえ。諦めないわ」

 「ですよね」


 わかってました。

 逃げたら追いかけてきましたから。

 人材確保に余念がない。


 「私、魔術を習ってるので、執事として活動する時間は・・・」

 「今日は遠くまで歩いて、わたくしと会う時間がありましたよね」

 「アッ、ハイ」

 「魔術、ですか。わたくしも習得しましょう」

 「そう、ですか」


 自称姫様は絶対やりたいことはあるでしょうから、弟子になること自体は問題なさそう。

 ただ、シャンディ師匠の家から自称姫様を見つけた場所まで、歩きで数時間くらいの距離はありそうだ。


 「しかし、この距離を毎日通うのは大変だと思いますが」

 「セバスチャン、あなたが送迎しなさい」

 「え?ど、どうやって」

 「あなたは執事として、馬車でも人力車でもいいから、手配しなさい」


 自称姫様の中では、もう執事になることが決まっているようだ。

 いや、まだ、決まったわけでは・・・!!


 そして、自称姫様と話しながら、私の家に着いた。

 自称姫様は、私の母に宣言した。


 「あなたの子をわたくしの執事にします」

 「ええ。いいですよ」

 「いいのか母さん!?」


 拒否どころか歓迎されている。


 「だって、ドゥは家を継ぐわけではないし、将来の仕事が決まっているほうがいいと思って」


 将来を考えると、悪い話ではないらしい。


 「わたくしはいつか、王子様を見つけます。だから姫様と呼んでください」

 「あら。わかりました、姫様」


 母と自称姫様は仲良くなった。

 この流れは、止められる気がしない。


 「そして、あなたの子はわたくしの執事として、セバスチャンに改名してもいいですか」

 「いいですよ。いつかは変わりますから」

 「そうなの母さん?」

 「そうよ。子供だけアーク様の加護を受けるのよ。大人になったら改名するのが普通」

 「そうなんだ」


 そして私は、今日から自称姫様クラウディア・プレデターブラッドの執事、セバスチャンになりました。

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