第11話 大人になりたい時

 「早く大人になりたい・・・」


 大人の魔術書没収事件の後、エグチはこんな調子だ。


 「子供が大人になるには、時間がかかるんだ。あと10年待とう」

 「10年は長すぎるよ」

 「それはそうだ」


 10年は長い。

 けど、その時間でやりたいことをやっていたら、短くて足りないと感じるような時間でもある。やりたいことをやると1年、やりたいことをやらないと100年に感じる。どちらが幸せなんだろう。

 私は文字の読み書きと魔力機関で、2年があっという間だった。


 「大人になってからやることは大人になってからやればいい。子供の間に、他にやりたいことはないのか」

 「子供の間に?」

 「そう。子供の間しかできないこともあると思うよ」


 子供の間しかできないことは、大人になってからでは取り返しがつかないんだ。

 たとえば、幼馴染を作るとか。


 「・・・私も、幼馴染を作っておくべきか」

 「ん?おれが居るだろ?」

 「いや、エグチたち以外で」


 エグチとティマヤトリムはカップルだろう、いや未来はわからないから変わるかもしれないけど、それとは別で他の子と関わっておきたい。

 5年あったのに、2人しか関わってねえ。


 「とにかく。私は他の子と関わってみたいから別行動だ。エグチはティマヤトリムのところにでも行くといい」

 「・・・それなんだけどさ。ちょっと、ティマヤトリムと話したいけど話しづらいんだ。どうにかしてくれ」


 真剣な相談っぽい。

 自分勝手に逃げられない。生きづらい。


 「ティマヤトリムと話しづらいって、どうして?」

 「なんか、こう。顔を合わせてくれないし。話も続かないし、手を握ったら振り払われるし」

 「嫌われたのか?」

 「いや、逃げるわけでもないから、嫌われてはいない、と思うぜ」


 知らねえよ。こっちは童貞なんだよ。

 でも考えてみよう。

 何が原因だろうか。


 「それっていつ頃から?」

 「つい最近」


 最近だと、エグチの相棒によって起きた、くすぐりノックアウトビクトリー事件があった。

 それが原因の可能性は高いか。


 「もしかしてエグチがティマヤトリムをノックアウトビクトリーしてからか?」

 「ああ、そのあとだ。じゃあ、謝ったけど、まだ許してくれてないのかな」

 「うーん」


 なんだろう。女の子はどんな気持ちなんだ。

 両手両足拘束されて、一方的にくすぐられて、ノックアウトビクトリーされる。

 そのあと、謝られる。話しかけられる。


 顔を合わせてくれない。

 怖い?恥ずかしい?悔しい?


 話が続かない。

 話をする余裕がない?何か他のことを考えている?


 手を握ったら振り払われる。

 反射?怖い?トラウマ?


 「うーん」

 「あー、すまん。ティマヤじゃねーから、わかんねーか」


 それはそうかもしれない。

 他人の心はわからない。

 でも。そういえば。


 エグチとティマヤトリムはカップルだと考えていたが、思い込みかもしれない。

 好き同士なのか。付き合ってるのか。

 そこらへんは確認していない気がする。


 「ティマヤトリムの心はわからないけど、エグチに確認したいことがある」

 「なんだ」

 「エグチとティマヤトリムって付き合ってるのか?」

 「・・・・・・・・・いや、まだ、告白、してない」


 どうなんだろう。

 不安とか、悩んでるとか、この相手でいいのか考え直してるとか?

 他人の気持ちなんてわからないよ。

 ・・・それでも、わかることはある。


 「そうか。決めるのはエグチとティマヤトリムだ」

 「なんだ、それ」

 「告白していないなら、誰と付き合うかなんてわからない」

 「なんだよ!それ!ティマヤが居てくれなきゃおれはっっっ!!」


 エグチは走り出した。おそらくティマヤトリムのところに行ったのだろう。

 どうなるかは二人が決めることだ。

 私は知らん。


 「ふぅ・・・」


 共感だけでは他人の心がわからないから、言葉があるのかもしれない。

 でも、共感や言葉でも伝わらないから、考えたり、話し合ったり、わかりあいたいから努力する。


 人間って、生きづらいな。

 でもそれが幸せなのかな。


 幸せだと感じることだけが幸せではないことは知っているけれど。

 自分で決めたほうが、幸せだと心が断言しやすいのは確かだ。


 「なんか疲れちゃったな」


 私は幼馴染を作っておきたい。

 しかし、疲れたから明日に回すことも考えていた。


 「いや、私が自分で言ったことじゃないか。子供の間しかできないこともある。幼馴染を作るのは、子供の間しかできないだろう」


 女の子と仲良くしたい気持ちが、ある。

 同時に、やりたいことと天秤にかける必要性を感じている。


 「私は」


 女の子を大事にできるだろうか。

 そんなことを考えながら、歩いた。


***


 一方その頃。

 逃げるティマヤを背後から抱きしめて、ティマヤの耳元でエグチは告白した。


 「ティマヤが居てくれないとおれは、生きていける気がしねえ。一生一緒に居てくれ」


 ティマヤは悶えている。


 「頼むよ・・・」


 エグチの追撃。

 ティマヤは敗北した。


 「・・・しょうがないなぁ。あたしがいないとダメなんだから。一緒に居てあげるわよ、バーカ」


 ティマヤは後ろを向いて、エグチの顔に近づき・・・エグチとティマヤは恋人になった。

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