第8話 ドゥリンアーク、5歳
文字の読み書きで2年経過して5歳になった。
その間、他にも色々あった。
***
魔術師シャンディ師匠の弟子になってすぐの頃、約束していた通りエグチと一緒にサリジールさんに会って、奇跡について話をした。
教会とサリジールさんで共通しているのは、人の助け合いだった。
教会の内外の助け合いと、助産の助け合い。
どうなるかはわからないが、エグチと助け合うことを約束した。
そして、その帰り道。
「あぁ、どうすんだよ。こんなの・・・」
「?」
落ち込んでるおじさんを見かけた。
エグチは「なんか気になる」とか言って、話しかけに行った。
そして、私はその間、地面に文字を書いて練習していた。
しばらくしてエグチは、鎖でぐるぐる巻きにされた本を持って戻ってきた。
「なんかおもしろそうな本もらった」
「・・・いや、危ない本だろ」
「んー、でもなんていうか、相棒を見つけた感じがするんだ」
「相棒?」
「そう。おれの父親の武器みたいな」
「ふーん」
そんなことを話しながら帰宅した。
もちろん、後日ティマヤトリムに報告した。
エグチのことはティマヤトリムに任せよう。
***
私は1年かけて、生命力を魔力に変換する機関を体内に用意できた。
方法としては、師匠が機関を用意して、私が機関を回す練習をする形になる。最終的に自力で魔力機関を動かす必要があるからだ。
術式だけで体に魔力機関を固定するのは難しいため、触媒を使って魔術を強化する。魔力慣らしで魔樹の実を食べることから、既に体内で安定している魔樹の実を利用して固定するという話になった。
私の両足のふくらはぎに触媒の魔樹の実を装着し、暴れてもずれないように両足を固定したあと、師匠が魔力変換機関構築魔術を実行する。
魔術は私の生命力を魔力に変換しながら、変換した魔力で機関を形作り、機関を回して魔力を全身に巡らせる。それを積み重ねて、魔力機関の理を体に刻み込む。
「星の川を走りたい、という話だったから、足に作るよ。足だからちょっとマシだとは思うけど、痛いものは痛いから、我慢してね」
「いだだだだだだだ!?」
もちろん、生命力を魔力に変換する機関なので、命に係わる危険として“痛み”の信号を検知しまくる肉体。私の悲鳴がうるさいので、手ごろな洞窟で防音しながら魔術を受けることになりました。
やったね。大声が出せる秘密基地だよ。(泣)
・・・人によっては、これって金髪碧眼の巨乳人妻から足に激痛マッサージをされる毎日みたいに考えて、楽しめるのかな?
そんなことを考えた。実際に、魔術で痛みを我慢した後、頑張ったから抱きしめようとしてくるが、人妻さんに抱きしめられることなど断固拒否する。
いや、今の私の年齢的にはよくあることだけど、私個人の信条として嫌なのだ。
痛くてつらいけど、どうにかこうにか断る。
毎日少しずつ痛みに耐えて、両足のふくらはぎに魔力機関を刻み終わったときには4歳だった。
***
魔力機関を刻んで家に帰ったら、母に呼び止められた。
「え?なんで白髪あるの?」
・・・どうやら痛すぎて、ストレスでちょっと白髪になったみたいだ。
前世では仕事に必要だから顔を確認してただけで、転生後は確認してなかった。
生まれて初めて自分のことを鏡でよく見た。
薄茶色の眼で、明るい橙の髪に白髪が混ざっていた。そして右側頭部に天を衝く角型のくせ毛。謎。姉と似たような感じで、そこそこきれいな顔になりそう。
また余計なことを考えた。
そんなことより、説明しておこう。
「魔術を使うために、ちょっと魔力機関を用意しただけだから大丈夫だよ」
「本当に大丈夫なの?」
「大丈夫」
やりたいことに向かっているのだから、その過程で何が起ころうと大丈夫。
***
魔力機関が用意できた後は、1年かけて魔力機関を回す慣熟訓練をした。
最初の頃は、走るのと同じように力強くやってしまって、
「ガハッ」
血を吐いてしまった。
魔力という異物を、全身を巡る細いラインにぶち込んだら、許容限界を超えて弾けたらしい。
元々魔力機関を持たない肉体なので、許容限界も低く、症状も激しかった。
魔力機関を止めてくれた首飾りや、聖職者さんの【回復】がなかったら危なかったかもしれない。
調子に乗ってた。もっと慎重にやろう・・・。
それから毎日ちょっとずつ魔力機関を回して、許容限界を上げていった。
生命力を魔力に変換しているため、やりすぎないように自分の体の限界を見極めながら慎重に回した。
作った魔力は、【自動発光】の術式を刻んだランタンを発光させて消費した。
限界以上の魔力は暴走して危険だから、魔力を作りすぎないように気をつけて生活した。
そして、5歳で上限にぶつかってしまった。
肉体や触媒のことなど、理由は色々あるけど、今できることはここまでらしい。
5歳までに起きたことは、それくらいだった。
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