第4話 ドゥリンアーク、3歳

 3歳になった。


 「よっ、ほっ」


 毎日運動して、言語習得をする日々を続けている。

 大声を出すのは色々発散してすっきりできるけど、母からいつか大人になるという話を何度も何度もされる。大声を出すほうが体が成長しそうなのでやっておきたい。

 ちょっとやめてみても、また同じような話をされたので、子供には根気強く何度も教える忍耐が必要とかそういうことかもしれない。


 「ちょっとあんたんとこの子供、元気すぎじゃないか?」

 「迷惑をかけてすいません」


 ・・・母に申し訳ないので、大声を出しても大丈夫な秘密基地とか考えよう。

 洞窟とかいいかな。山がなくても反響する程度の大声に耐えるものがいいな。


 発散ができなくなって、普段の食事作業でじわじわと蓄積される不満が爆発しそうになってくる。

 木の実とか草とかをいっぱいぶち込んで牛乳っぽいもので煮込んだ感じのスープを味わいながら流し込む作業が毎日続く。


 「「「いただきます」」」


 牛乳っぽいものは優しいけど、木の実は頭にガツンと来るような主張が激しい独特な風味で、草はなんか薬っぽくて薬草かもしれない。

 前世の似たようなうまいものと比較して、コーンフレークとかシチューとか夢に出てきてつらくなる。


 乳離れしたことの後悔みたいなものが過って、恥ずかしくて頭抱えてごろごろ転がって悶える。もしかしたら、恥ずかしいから自分で記憶を消して、子供の頃のことを忘れるのかもしれない。


 食事については、定期的に贅沢な食事をする大人たちが羨ましい。

 おそらく肉、酒、豆・・・豆だ!?

 肉を食べるとずっしりするし、酒で酔うのは自分を試す感じで神経が尖ってつらい記憶。豆はいつまでもパクパク食べてしまえるので、豆が食いたい。でも、もらえないってことは、食べちゃダメなんだろうなぁ。ちくせう。

 アン姉は豆を食べてる。アン姉は8歳だったはずなので、それくらいになれば豆を食べてもいいのかも。


 「まめ・・・」

 「ん?食べる?」

 「だめよアン。ドゥはまだ3歳だから豆は食べられないわ」

 「はーい。ごめんねドゥ」


 やっぱりそうか。

 早く豆が食べられるようになりたいな。

 というか、他の人も食べ物に不満があったりするのかな。

 家の外の子供に聞いてみよう。


 「離乳食ってあれだよね・・・」

 「おいしくない」

 「牛乳だけあればいい」

 「でも、あの薬草で病気にならないらしいよ」

 「そうなの?」

 「魔力慣らしのために魔樹の実が入ってるって聞いた」

 「へー」

 「そうなんだ」


 食事については用意してもらえるだけでありがたいので、何にも聞かなかったから、全部初耳だった。

 そういえば、最初に文句も言わずに完食したときびっくりされてたかも。


 「豆食べたいな」

 「たしか5歳からだっけ」

 「おれ4歳だからだいじょぶだろ!!」

 「いや、だめでしょ!?」


 4歳の子供が、制止を振り切って、どこかから持ってきた豆を口いっぱいに頬張る。


 「あんた、そんなにまとめて食べたら・・・」

 「うぐぅ!?」

 「ほら!!このバカ!!」

 「えぇ!?」

 「大変だ!?」


 これ私が豆食べたいって言ったせいか!?

 助けなきゃ。

 バチバチッ


 4歳の子供を持ち上げたら、怒ってる子供が手伝ってくれた。

 一緒に運んで、大人を見つけて助けを求める。


 「そこの人!」

 「こいつが豆で喉詰まった!」

 「なんだって!?医者~~~~~~~~!!医者を呼べえええええええ!!」


 「医者です!」

 「この子供が喉に豆を詰まらせたようです」

 「そんな・・・喉に詰まったものを取り除くために打法はありますけど、子供を叩いたら天から覇王の雷が降るので、できません!」

 「でも命が───」

 「そうは言っても───」


 「水を飲ませるのはどうですか!」

 「飲み込んでくれません!」

 「じゃあ───」


 「あの!私、風の魔術が使えるんですけど!やってみてもいいですか!」

 「なんとかできるんですか!?」

 「試させてください」

 「お願いします」


 魔術師のお姉さんが、子供の喉のあたりに杖を当てて、魔術を使う。

 「【風】」と唱えて、杖を軽くこすった。

 すぽーん

 子供の口から外に豆が飛んでいった。


 「げほっげほっ」

 「「「おーーーー」」」

 「よかった」

 「助かりました」

 「ありがとうございます」

 「いえいえ」


 助けられてよかった。

 そんなつもりないのに、あんな一言で子供が死ぬとかつらいから。

 子供の手の届かないところにしまうの大事だと実感した。


 「おえー」

 「あんた!!この人にお礼言いなさい!!助けてくれたのよ!!」

 「うう・・・ありがとうううううう!!」

 「わっ」


 助かった4歳の子供が、魔術師のお姉さんに抱き着いて感謝していた。


 「・・・ぐふ」


 ・・・感謝?していた。

 抱きついた子供の顔は、魔術師のお姉さんの胸で隠れている。


 「!?・・・こいつっ!!離れろ!!」

 「あらあら。まだ小さい子供のやることだから」

 「こいつ常習犯だからダメッ!!」


 子供はたくましいな、と思った。

 それはそれとして、魔術があるなら、やってみたいな。

 ぽん

 頭に手を置かれる。


 「あ、サリジールさん」

 「よくやった。覇王様も手伝ってくれたみたいだね。感謝しておきな」

 「覇王様が手伝った、って何の話?」

 「あの子を運んだ時、バチバチしてたろ。それさ」

 「わからないです」

 「まあ、【助産】の奇跡と似たような話だよ。覇王国では、子供のためなら覇王様が手伝ってくれて、いつもより頑張れるらしいって話さ」

 「そうなんですね。感謝します」


 (ありがとうございます覇王様)


 「・・・もう覇王歴127年だし、生きてるかわからないんだけどね」

 「え?」


 聞き返した時には、サリジールさんは去っていた。

 それよりも、魔術を知りたい。

 落ち着いたら、聞きに行こう。

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