第3話 ドゥリンアーク、2歳

 母に抱きかかえられながら移動して、ぼんやり明るい洞窟に着いた。

 そこにはちょっと光ってる像が壁一面にあった。


 「わぁ・・・」

 「どうだい。光っててすごいだろう。なんで光ってるかわからないんだけどね」

 「え、奇跡の光なのでは?」

 「さあね。天使の像とかも言われてるけど、【助産】の奇跡の光で安心して、出産がうまくいくからありがたいね」


 天使の像と言われているが、翼もなく、天使の輪もなかった。

 全体的にシンプルで、目と口の穴があるだけで人体がほとんど省略された、かろうじて人型の像とわかるものだった。

 前世で似たようなものもあるかもしれないが、【助産】の奇跡があるということは、それを願う人が居たのだ。

 たぶん、形ではなく、想いが大事とかそういう話だ。


 「さあ、祈るよ。これからも、出産がうまくいきますように、ってね」

 「はい。ドゥも、目を閉じてね」

 「はい」


 目を閉じて、祈る。

 (これからも、出産がうまくいきますように)

 ・・・一瞬、温かい風が吹いた気がした。

 目を開ける。

 特に、何の変化もない。


 「よし、帰るよ」


 祈ったらすぐ帰るの、早いよー。

 なんとか手の光について、聞きたい。


 「て」

 「ん?なんだい」

 「て、ひかり」

 「手の光かい?あれは、長年出産手伝いしてたら、いつの間にか光るようになっただけさ」

 「え、そうだったんですか?」

 「そうだよ。なんだい、知らなかったのかい?」

 「知らなかったです。サリジールさんが出産を手伝ってくれれば奇跡の光で安心っていう話は聞きましたけど」

 「まあ、いつの間にか光りだして、なんとなく出産もうまくいくようになったのさ。この洞窟と同じだよ」

 「この洞窟もですか?」

 「そうさ。誰かが出産がうまくいくように像を作って、それを真似して他の母親や子供たちも作るようになっていったのさ。そしたら、いつの間にか光りだして、ありがたいと祈るようになった」

 「そうなんですね」

 「みんなで出産がうまくいくように想いを込めたから、奇跡が起きてるんだろうさ。だから、感謝するならあたしじゃなくて、みんなにしておくれ」

 「えっと、はい。サリジールさんだけじゃなくて、みんなにも感謝しますね」


 そう言って、母はもう一度お祈りをした。

 私もお祈りをした。

 (ありがとう)


 「・・・よし。じゃあ、今度こそ帰るよ」

 「はい。あの、またここにお祈りしてもいいですか?」

 「もちろん。何度でもお祈りしてくれるとありがたいね」

 「わかりました。また来ます」


 結論として、【助産】の奇跡の光は、みんなで起こした奇跡っぽい。

 神様に祈ってるわけじゃないみたいだ。

 そして、みんなが必要だから、私一人では難しそうだ。

 ・・・これから、どうしよう。

 とにかく、もっと言葉を覚えようかな。


***


 2歳になった。


「ふぉおおおおおおおおおおおおおおおうううう!!」


 走り回って心臓バックンバックンドッキンドッキン!!

 無性に体を動かしたくて、だいたい朝から晩まで動き回る。

 一晩寝れば全快する。

 全身に力が漲る。

 元気が有り余っている。

 体が小さくて軽いからか、空を飛べそうな全能感で調子に乗りそうだ。


 「おはよー!!おはよー!!おはよー!!」


 挨拶をしまくって挨拶を返される前に走り去ろうとする、挨拶通り魔と化す。

 そして、ぬっと現れたアンリンアーク姉に捕まった。


 「朝食の時間よ」

 「あらー」


 そうやって、家に連行され、朝食の時間になる。

 なんとか乳離れができて、助かった。

 1歳の頃の食事については、コメントを差し控えさせていただきます。

 まあ、離乳食も、なんとも言えないけども。

 贅沢な舌の記憶だ。


 「よしよしよしよし、今日も食べたねー。いいねー」


 めちゃくちゃ撫でられる。

 照れる。

 そして、運動して頭が回るようになってきたためか、余計なことも頭に過ってしまう。

 なんか、ペットみたいな扱いだな、って。

 ぬぐぁ、余計なことを考えてしまって、生きづらい・・・。


 「んむむむむむむ」

 「どうしたの?」

 「なんでもないよ」


 まあ、よく考えたら、ペットを子供として家族にしてる人も居た気がする。

 だから、子供扱いされてるだけだね。


 「いってきます」

 「いってらっしゃい」


 朝食後は、また家を出る。


 「はっはあああああああああああああ!!」


 家の外を走り回るようになって、気づいた。

 家や人の数がそんなに多くないので、たぶん村に住んでいる。(遅)

 そして、この村はそこそこ人の出入りが多い。

 数日前まで家に住んでいた人が外に行って、その家に外から他の人が引っ越してきて住んでいた。

 それを母に聞いてみると、


 「あそこのいえのひと、なんでそとにいって、ほかのひとがすんでるの?」

 「人の出入りがあると、村が長続きするらしいわ」

 「なんで?」

 「出入りがない村は、いつの間にか魔物に滅ぼされていたからよ」

 「まもの?」

 「人を食べちゃったりするこわーいやつらよ!!」

 「うわあ!?」


 人を食べる魔物が居るらしい。危ないかも。

 気をつけよう。

 というか、魔物が居るなら、ほぼほぼ異世界だ。


 「まものにたべられたくないよ」

 「怖がらせてごめんね。でも魔物は危ないからね」

 「どうすればいいの」

 「子供は走って逃げる。戦うのは大人の人たちに任せなさい」

 「わかった。にげる」

 「よし、いい子ね。じゃあ、もう一つ教えておくわね」

 「もうひとつ?」

 「あなたは今は子供だけど、いつかは大人になるわ。大人になったときは、子供を守ってね」

 「わかった。おとなになったら、こどもをまもるよ」

 「うん。お願いね」


 そんなことを話す日もあれば、お祈りに行く日もある。


 「これからも、出産がうまくいきますように」


 運動すると頭が回って、言語習得が捗る。

 だから毎日運動して、元気に過ごした。

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