子供編

第2話 ドゥリンアーク、1歳

 「(?語)~~~」


 大人たちから何かを話しかけられているけれど、日本語ではないので何もわからない。

 転生したのはいいけど、どうやら日本ではないらしい。

 私は日本生まれの日本語しか使えない日本人なので、他の言語がわからないんだ。


 「あー」

 「(?語)~~~!~~~」


 たぶん生まれたばかりで、そもそもうまくしゃべれないから、あんまり関係なかった。

 しわくちゃのおばあちゃんに慎重に抱き上げられ、手が光ってなんかされたあと、上を向いて祈って感謝してるように見えた。

 そして、泣きながら笑ってる薄着の女の人に手渡された。

 顔を頬ずりされたり、ぎゅーっと強く、強く抱きしめられた。

 ちょっと苦しかった。


 「あうぅ」

 「(?語)~~~~~~~~~~~~~~~!!」


 たぶん、この強く抱きしめてくれてる人が私の母親なのだろう。

 私を産んでくれて、ありがとう。

 同時に前世の家族のことを思い出して、20代で死んでしまったことの申し訳なさを思って、悲しくなった。

 早死にしてしまって、ごめんなさい。


 「う、うぅあああああああああああああ」


 感情が抑えられなくて、大声で泣いた。

 新しい母と一緒に、泣いた。


***


 しっかり泣いて、すっきりした。

 気づいた時には、布団に寝かされていたので、ゆっくり考える。

 死んだことと転生したことを、ひとまず受け入れて生きようと思った。


 私の不注意で車に撥ねられて死なせてしまった前世の体に、すまないと思う。もっとしっかり、命を大事にするべきだった。

 いや、よく考えたら車に撥ねられたのは痛かったけどまだ動けたから、どちらかというと追い打ちで頭を殴られたのが致命傷だった気もする。

 まあ、過ぎたことだ。

 自分一人だとまた失敗しそうだから、自分以外の何かを用意したほうがいいかもしれない。


 前世は、幸せなはずだったけど、どこか納得できていなかった。

 たぶん、他の誰かが言う幸せばかりで、私が本当に幸せだと思う何かを、見つけられていなかったのだと思う。

 だから、私が幸せだと思う何かを、探すことにした。


 転生したから、これからどんな風に生きるかをおおよそ決めて、冷静になって考えた。

 なんか、おばあちゃんの手が光ってたな???

 あれは、何?

 もしかして、私が知らないだけで、魔法が実在していたのか!?


 いや、待て。あれは神様に祈っていたかも?

 ということは奇跡とか?

 まだわからない。


 言葉がわからないので聞くこともできない。

 まずは言語を習得しよう。


***


 私が生まれてから1年が経過した。

 他の言語を覚えるのはすごく疲れる。

 まだまだ単語を聞き取れたり聞き取れなかったりする程度なので、ちょっとしか覚えてないかもしれない。


 「ドゥリンアーク、誕生日おめでとう」


 これが、私の名前だ。

 覇王アークから、名前をもらったらしい。

 前世で覇王アークなんて歴史上の人物は居なかったはずなので、異世界の可能性を感じている。


 「ありがとう」

 「おー!よく言えたねー!よしよしよしよし」


 ありがとうが言えただけで頭を撫でられまくる。

 照れる。

 そして、私の誕生日を理由に、大人たちがご馳走を食べる。

 1年間様子を見ていた限りでは、娯楽が少ないから、贅沢をする口実をいつでも探しているのかもしれない。


 「サリジールさん、うちのドゥが生きてて本当によかったです」

 「あたしはなにもしちゃいないよ。その子が勝手に生きてただけさ」

 「それでも、出産を手伝っていただいて、ありがとうございました」

 「何回も言わなくていいよ。聞き飽きた」

 「それでも───」

 「わかったから───」


 母と、しわくちゃおばあちゃんのサリジールさんがまた同じような話をしていた。

 今日こそ、サリジールさんの手の光について、なんとか話を持っていきたい。

 母に抱えられた状態で、サリジールさんの手に、私の手を伸ばす。


 「はいはい・・・ん?なんだい、あたしの手になんかあんのかい?」

 「あら、どうしたの、ドゥ」

 「ひかり」

 「光?光がどうしたって・・・あぁ、もしかして出産のときの【助産】の奇跡かねぇ」

 「そういえば、ドゥはサリジールさんの奇跡の光を目の前で見ていたわ」

 「きせき?」

 「そうだよ。奇跡の光さ。効果があるかないかわからないおまじないさ」

 「そんなこと言わないでください。こうしてドゥは生きてるんですから」

 「はいはい。わかったわかった・・・じゃあ、お祈りにでも行っておくかい」

 「そうですね。行きましょう」

 「おいのり・・・」


 そういうことで、お祈りに行くことになった。

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