生きづらい人間の幸福探求~やりたいことがぶつかり合って思い通りにならないから楽しい寄り道をする人生~

ダルミョーン

第1話 転生

 私は、幸せだ。

 幸せな、はずなのだ。


 食べるところも寝るところもあったし、誕生日くらいは祝い事があった。

 学校にも通えたし、友達だって居た。

 読書やゲームなどの娯楽もできた。

 仕事だってやったし、給料で趣味のものを買ったりもした。


 けれど、よく思い返してみると、違うような気がしてしまう。


 祝い事のない日は、空っぽだった気がする。何を思って生きていたか、何も思っていない。

 体調不良でもテストを受けるために通学したのは、他にやりたいこともないから。友達は居たけれど、10年以上連絡を取らなくても何一つ問題を感じない。

 読書やゲームなどの娯楽は、何もやらないのはもったいない気がするからやるだけ。

 仕事は社会がそうだからやるし、趣味のものを買うのも金があるからで、金がないなら買わなくてもいい。


 本当に、幸せなのか。

 何度も、考える。

 私は、本当に幸せなのか?


 そもそも、私にとっての幸せは、なんだ?

 三大欲求は、どうだったか。全部、邪魔だと思ったことがある。

 じゃあ、たぶん別のことか。いや、二度寝とか、至福というやつの可能性がある。時と場合によって異なるはずだ。

 ということは、三大欲求そのものは幸せではないが、二度寝とかの一部は幸せなのかもしれない。


 友達とか他人はどうだったか。

 好きだけどいらないかな。

 愛してるけど必要ない。

 断捨離の果て、身一つしか残らない。

 なんとなく、口に出すのはやめておいたほうがいい気がするから、墓まで持っていこう。

 そもそも、学校とか会社とか、狭い範囲でしか人と関わっていないことに気づく。

 つまり、まだまだ他にも色々な人が居るはずなのに、知らない。

 せいぜい数十人程度。少なすぎる。

 だから、結論を出すには早すぎる。

 もうちょっと数千人くらいと関わってみよう。


 深く考えても、あんまり意味のない気もしてきた。

 これが幸せだと思って、それに縛られすぎても苦しそうだし。

 そのときそのときで、また考えればいいでしょう。


 そんなことを考えながら、買い物袋を持って立ち上がる。

 一人暮らしをしていると、こうやって考える時間が多くなる。

 自分の代わりに考えてくれる人が居なくて、自分で考えて行動する必要のあることがいっぱいだから。

 まあ、だから、こういうこともある。


 横断歩道の赤信号に気づかずに歩いて、車に撥ねられた。


 痛い。

 自分の代わりに赤信号に気づいて止めてくれる人は居なかったから、自分で気をつけなくちゃいけなかった。

 自分で車を運転するときは、赤信号を無視して歩いてる歩行者を気をつけて運転していたのに、自分が赤信号を無視して歩く歩行者になってしまうとは。

 誰かを殺さないように気をつけるくせに、誰かに殺されることには無頓着なのか。


 これが不幸なのかといえば、そんな気はしない。

 まあ、飛び出してきた歩行者を撥ねないように気をつけてもらいたかったけども。

 赤信号を無視して歩いた私も悪いので、どっちもどっちだ。


 車から人が降りてきた。

 手には棒状のものを持っている。

 目撃者の口封じか。徹底しているな。

 と思ったけど、車から降りてきた人は、顔を恐怖に引きつらせていた。

 何を怖がっているのかと思ったら、そういえば私は笑顔だった。

 私の笑っている顔は、自分でも怖いと思う。


 怖がらせてごめんね。

 …いや、え?これ私が悪いの――─“ぐしゃ”


 それが、最期に考えたことだった。


***


 ───ぽこぽこ胸のあたりを殴られながら起きた。

 「うああああああああああああん」

 目を開けて見えたのは、私の胸のあたりをぽこぽこ殴る小さい子供だった。

 周りを見ると、私のほうを見ていた大人たちがびっくりして、ぽこぽこ殴る子供を抱きかかえて止めた。


 私の手は、小さい子供のものに変わっていた。

 そういえば、こういうのを本で読んだことがある。

 転生、か。

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