第13話 三年後――
学園、そして大陸を巻き込んだ大災厄から三年……。
空は闇に覆われ、地上はモンスターが跋扈し、人々は脅かされていた。
「ううっ……ラヴ……」
とある海辺の村の家の一室。ベッドの上でアモルはうなされていた。
それを見守る一組の老婆と青年。
「なあ、婆さん。まだこいつを見てやるのか? もう三年も目を覚まさずうなされ続けてるんだぜ?」
「しかしねえ。見捨てるわけにもいかないでしょう?」
老婆は、アモルの額に置いている濡れた布を取り換える。
「それに……私の勘だとそろそろ目覚めてくれる気がするんだよ」
「それも言い続けて二年くらいだけどな……」
青年はやれやれと首を振った。
そこに、駆け込んでくる別の男性。
「二人とも、またモンスターの群れが来たぞ。早く避難穴へ!」
「ちっ、またかよ。婆さん!」
「はいはい。わかってますよ」
青年たちがアモルを担ぎ、老婆はゆっくりと避難穴へ向かもうとする。しかし――
「グアアアッ!」
「げっ、もうこんな所までモンスターが!」
青年たちと老婆は別の道に向かおうとするが……。
「ガアアアッ!」
「うわっ、こっちにも!?」
「おいおい、囲まれてるぜ……」
モンスターの群れはいつの間にか村中に入り込んでいた。
「おいおい、こんなに入り込んでるなんて聞いてないぞ……」
「……婆さん。あんたは嫌がるだろうが手段がないこのガキを……」
「まさか……囮にする気かい!?」
「それしか……ねえだろ!」
青年二人は勢いをつけると、モンスターの群れの一角にアモルを投げ捨てる。
「ガアッ?」
モンスターの群れがアモルに気を取られている隙に、青年たちは老婆を担ぎ走り出した。
「グルル!」
モンスター数匹がアモルを喰らおうと近づいていく。
その手がアモルに伸びようとしたところで、光が走った。
「な、なんだ!?」
その光に、逃げていた青年たちも振り向いて驚く。
光が収まると、そこにはモンスター数匹を蹴散らすアモルの姿があった。
「……ここは? 『僕』はいったい……」
アモルの姿は三年で成長。背は大きくなり、声は少し低くなっていた。
「お、お前さん。目が覚めたのかい?」
背負われている老婆が声を掛ける。
しかしアモルには何のことかわからない。
「この婆さん、ずっと眠っていたお前の面倒を見てたんだぜ? 三年もな」
「三年……」
「そ、それより!」
青年が周りを指す。
そう、モンスターの群れはまだ残っている。
「わかっています。貴方たちはそこに」
青年たちの前から、アモルの姿が消える。
消えた、と思った数秒後には、モンスターの群れは崩れ去っていた。
「な、なんだ……? お前、何者だ?」
戻ってきたアモルに、青年たちは驚きながら質問する。
「僕は……アモル。学園の生徒です」
モンスター騒動が収まり、老婆の家でアモルは自身の事情を話すとともに、
この三年で起きたことを聞いていく。
「三年前、お前の言う学園で事件が起きた。それはわかるな?」
「モンスターの襲来。嵐の猛威。ですか?」
「それだけじゃない。ものすごい魔力の大爆発が起きたんだ」
「魔力の……大爆発……?」
アモルはすぐに思い出し気づく。
アーマの攻撃から自分を守ろうとしたラヴ。
そのラヴの防御とアーマの攻撃がすさまじい爆発を引き起こしたのだと。
「そ、その後は? どうなったんですか?」
「学園は崩壊した。……したんだが」
「だが?」
「これは見た方が早いだろ。ちょっと来い」
青年の片方がアモルを呼び、家の屋根に登る。
そこから大陸中央に見える景色にアモルは驚いた。
「あれは……!?」
遠くのはず。
なのに『それ』ははっきりと見えていた。
「あれは……いったい……?」
「わからん。だがあそこが、お前の言う学園だった場所だ」
「な……?」
地図はないのであそこが本当に学園かはわからない。
だがこんな状況で青年や老婆が嘘を言う理由はない。
「戻るぜ」
青年が先に家に戻っていく。
「……あそこが学園……」
アモルに三年前の思い出が浮かんでいく。
ラヴが、シオンが、エレテが、ヒノが、スイが、フウが、アスが、頭に浮かんでは消えていく。
「でだ。学園が崩壊して『あれ』が出現して以来、この大陸はモンスターが大量発生」
「ここだけじゃなく、いろんな町、村が襲われてるってわけだ」
「そんなことが……」
これもアーマの仕業なのだろうか、と考えつつ、アモルは別の話に移る。
「あの、お婆さん。あなたが僕を助けてくれたって聞きましたが」
「ああ、そうだよ。川に洗濯に行ったらね、ボロボロのお前さんが流れてきたんだよ」
「助けてくれてありがとうございます。それで、あの、他にはいませんでしたか? 女の子が」
「ううん、残念だけどお前さんだけだねえ」
「そうですか……」
「もう行くのかい?」
「はい。お礼もできずに申し訳ないですが、僕はみんなを探しに行かなきゃならないんです」
そうかい、と老婆は頷くとひとつの袋を差し出した。
「これは?」
「食料と薬だよ。お前さんが強いのは昨日でわかってるけど、食料がないとね」
「お婆さん……。ありがとうございます! みんなを見つけたらお礼をしにきます」
「ほっほっ、待ってるよ」
老婆に手を振り、アモルは村を旅立つ。
いきなり学園跡に乗り込むのはさすがのアモルもしなかった。
老婆に教えてもらった道を頼りに、村と町を巡りみんなを探すのを最初の目的とした。
「いやあ、すまないね。助けてもらって」
「いえ。こちらも乗せてもらってありがとうございます」
途中、モンスターに襲われていた行商人を助け、
お礼に馬車に乗せてもらい、アモルは一番近い村にたどり着いた。
その村の人たちに聞いて回るも、村には誰も来ていない。
だが一人の村人がアモルに声を掛ける。
「あんた、アモルって言うんだって? 何日か前にいたよ。『アモルを探してる』って子」
「本当ですか!?」
「ああ。町に向かったはずだからもしかしたら追いつけるかもね」
「ありがとうございます!」
アモルは村を駆け出ていく。
「あの小僧……生きていたのか……」
それを見ている謎の人物に気が付かずに。
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