第14話 再会――その①

普通なら三日かかる道を一日半で駆け抜けたアモルは、

息を切らしながらも大きな町にたどり着く。


「ここに誰かが……」


アモルはまず町を見て回る。

大きな町だが、やはりモンスターの影響は大きいのであろう。

所々家屋が崩れ、町の人たちの活気もあまりない。


「すみません、人を探してるんですが――」


「……いえ、見てないねえ、君以外によそ者は」


「すみません人を――」


「う~ん見てないなあ。宿の人か酒場の人に聞くのがいいんじゃないかい?」


アドバイスに従い、アモルは酒場をのぞいてみる。

昼から酒を飲む酔っぱらいが主な客で質問は出来なかったので、有能そうな酒場のご主人に話を聞くことにする。


「あの、人を探しているんですが……」


それを聞いて酒場の主人の眉がぴくっと動く。


「もしや貴方はアモル殿?」


「え?」


「そのようですな。先程一人の女性が聞いてきました。

見かけたら宿に来るよう言伝を頂いておりました」


「あ、ありがとうございます! 宿に行ってみます!」


すぐさま酒場を出て走り、宿の扉を勢いよくを開けた。


「お客様、扉はゆっくりお開けください」


「あ、すみません……」


そっと扉を閉めると、宿の主人に質問する。


「アモルといいます。ここに僕を探している人が来ていませんか?」


「アモル……。ああ、そういえば」


宿の主人はカギをチェックしながら呟いた。


「二階の奥の部屋に行きなさい。おそらくまだ部屋にいるはずです」


「あ、ありがとうございます!」


アモルは二階に上がると、一番奥の部屋をノックする。


「はい?」


アモルの耳に聞いたことのある、しかし成長した声が届く。


「あ、アモル……だけど」


それを聞くと、扉が勢いよく開いた。


「アモル!?」


「え……も、もしかしてシオン?」


開いた扉の中にいるシオンの姿を、アモルは一瞬わからなかった。

三年前よりも背が伸びたのはもちろんだが、短かった髪が大きく伸びていたからだ。

可愛かった見た目も、美人と言える容姿になっている。


一方、扉を開けたシオンもアモルをすぐにわからず驚いていた。

シオンの記憶では、アモルと背丈はそこまで変わらなかったから。

それが自分を大きく上回る背丈と、声の低さ、カッコよさで驚きを隠せない。


「あ、でもその目。本当にアモル。……アモルなんだね!」


シオンは嬉し涙を浮かべながら、アモルに抱き着いた。


「シオン……!」


アモルも嬉しさで抱き返そうとして、一瞬戸惑いやめた。

シオンを軽くなでるが、すぐに引き離し、本題に入る。


「シオン。ラヴやエレテ、先輩たちはどうなったか知らない?」


その質問にシオンは寂しさと怒りで複雑な表情になる。


「……わかるよアモル。みんなが心配なのは。でも!」


シオンはアモルを押し飛ばすと、嬉し涙から怒りの涙で叫んだ。


「もう少し私との再会を喜んでもいいじゃない!」


そう言うと勢いよく扉を閉めた。


「あ……」


アモルはただ扉の前で立ち尽くすしかなかった。




「おや、どうしました? 何やら大声が聞こえましたが……」


宿の主人が心配そうに、しかしわかっているように様子を聞いてくる。


「ええまあ……怒らせてしまって」


そう言うとアモルは自分も宿に泊まれるか聞いてみるが、部屋はもう空いていなかった。


「仕方ない……野宿でいいか」


さっきシオンを怒らせた罰だな、と思いつつアモルは宿を出て町の外へ向かおうとする。

そして町の近くでたき火を付け、眠ろうとした時だった。


「アモル」


「……シオン?」


シオンがいつの間にか町の外まで追いかけて来ていた。


「なんでここに……」


「……さっきは怒り過ぎた。ごめん」


「いや、こっちこそ、ごめん」


アモルは改めてシオンに近づくと、そっと抱き寄せた。


「僕も、シオンと再会できて嬉しい。本当だよ」


「うん……うん……!」


シオンは再度、嬉し涙を零しながら、アモルに強く抱き着いた。




その後、シオンがどうしてもと言うので、アモルはシオンの部屋にお邪魔することにする。


「で、皆の行方だったよね」


「うん、僕は三年間、眠っていたらしいから。シオンなら知ってるかなと思って」


しかしそれを聞いてシオンも困った表情をする。


「ごめんねアモル。実は私もまだ特に情報がないの。

私が目覚めたのは一年前。遠くに飛ばされてて、この辺りに戻って来たのもつい最近で」


「そう……か」


「あ、でもね!」


シオンは荷物から地図を取り出すと机に置いて一か所を指差した。


「私たちがいる町はここなんだけど……。こっち。ここを見て」


シオンの案内通りに地図を見る。

シオンの指の先には、ひときわ大きな屋敷の図が書かれている。


「ここは、もしかして」


「そう、先輩たち、エレメント家の屋敷。アモルは行ったことあるでしょ?」


エレメント家の屋敷。

アモルが予言を聞くために、ヒノ、スイ、フウ、アスの4属性姉妹とともに行った姉妹たちの実家。


「確かに……。先輩たちの母親、エリスさんなら何か知っているかもしれない」


「それに先輩たち自身も戻ってるかもしれないよ」


「うん、じゃあ明日は屋敷に向かおう」


目標が決まり、アモルたちは眠ることにするが……。


「シオンはベッドで寝ていいよ。僕はこっちの椅子で眠るから」


そう言って椅子にもたれ掛かるアモルに、シオンは緊張しながら提案した。


「アモル……一緒に寝ない?」


「!?」


驚きでアモルは椅子から崩れ落ちる。


「シ、シオン? 僕たちも大きくなったんだし、そんなことは……」


「アモルとなら……一緒に寝るくらい平気だよ?」


「っ……」


成長したシオンの表情がすごく妖艶に見えて戸惑うアモル。

しかしゆっくりとベッドに近づくと、シオンの横にそっと座った。


「ね、寝るだけだからね!」


「うん。それでいいよ」


アモルはすぐに布団に潜るとシオンの方を見ずに目を閉じる。

最初は緊張していたアモルだったが、疲れていたのかすぐに眠りに落ちた。


寝息を立てるアモルにシオンがそっと近づく。

そしてそっとアモルの頬に口づけした。


「生きていてくれて……ありがとう。アモル」


そう言ってシオンもアモルの隣で眠りに落ちるのだった。

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