第12話 大災厄

パーティー会場は静けさに包まれていた。

皆、飲み食いが終わり、それぞれ眠ってしまっていたからだ。


「う……ん……?」


そんな中、アモルがいち早く目を覚ますと気がつく。


「……やけに暗いな……? それに外が騒がしい?」


アモルは皆を起こす前に窓から様子を見る。


「……な」


そこは地獄のような光景だった。


モンスターの群れが生徒を襲い、対抗しようとした教師もやられていく。

魔法によるものか、嵐が校舎を襲い生徒たちを薙ぎ払っていく。


「み、みんな、起きて!」


アモルは皆を揺すり起こすが、皆、なかなか目を覚まさない。


(……おかしい。ボクも頭がくらくらする。眠り薬でも入れられたみたいな……)


頭が上手く回らない中、なんとか皆起き上がり、外の光景に恐怖する。


「な、なんだよ、これ……」


「この前のモンスター襲撃よりも多い……」


「……これは」


「本当に『大災厄』……」


4姉妹が以前の出来事に恐怖する。


「ア、アモル……」


「アモルくん……」


そしてシオン、エレテも恐怖でアモルに抱き着いた。


「二人とも、先輩たちも。まずは避難しましょう。ここにいつ来るかも――」


そこでアモルは気づいた。


「ラヴは? アーマもいない……?」


周りを見渡すが、シオンとエレテ、4姉妹以外誰もいない。


「アモル、あれ!」


シオンが空を指す。

禍々しい色の空の一角に魔法陣に磔にされたラヴの姿が見えた。


「ラヴ!」


アモルは皆を置き、窓から飛び出す。


「あ、待って、アモル!」


シオンたちも駆け出した。




校舎の屋上にアモルがたどり着く。

そこには磔のラヴ。そしてその前には……。


「あら、よく来たわね。ボーヤ?」


「誰だあなたは!」


そこには黒の装束を着た謎の女性がおり、ラヴの前に陣取っていた。


「あー、この姿だとわからないわよね。じゃあ――」


女が指を鳴らすと、瞬時に姿が小さくなる。


「これならわかるでしょ? アモルくん?」


「アー……マ?」


小さくなってアモルの前に立つのは、紛れもなくアーマであった。


「ア、アーマちゃん!?」


「アーマ……ちゃん?」


追いついてきたシオンとエレテも驚きを隠せない。

大人の女性が目の前で、少し前に仲良くなった少女に変貌したからだ。


「アモル、今のアーマからは……」


「アス先輩……わかっています。今のアーマからは禍々しさしかない」


アモルは覚悟を決め臨戦態勢で前に出る。

その後ろに4姉妹も立ち、シオンとエレテも覚悟を決める。


「あら、みんなして怖い怖い。ですが……」


アーマが再び指を鳴らす。


「今度は何を……うっ!?」


アモルが急に前のめりになる。

アモルだけでない。4姉妹もシオンとエレテも。


「これは……いったい……?」


「知りたいですか?」


アーマが懐からひとつの小瓶を取り出した。


「これは……まあ簡単に言うと、あなたたちを眠らせた薬です。

ですが眠らせるだけではありません。時限式であなたたちの力を弱める効果もあるのです」


「まさか……パーティーの料理に……?」


「ええ、そうです」


それを聞いてヒノが割り込んだ。


「ま、待てよ。いくらオレたちでもそんな怪しい薬、見逃すはずが……」


「ええ、普段ならそうでしょうね。

小娘とはいえ、有名な4属性姉妹を出し抜けるとは思いません。だから彼女に協力してもらいました」


アーマが指をさす。そこにいるのはエレテ。


「え……わ、わたし?」


「ええ、そうです」


アーマは小瓶を手で遊ばせながら語りだす。


「シオンちゃんとエレテちゃんがアモルくんの気を引こうと頑張ってるのは明白でした。

だから、ちょっと片方を手伝ってあげたんですよ。ね、エレテちゃん?」


エレテは思い出す。料理の最中、ちゃんとアーマを見ずに砂糖の追加をお願いした時を。


「あの時……」


「そう、その時です!」


「そ、そんな……」


力が抜けていくのと、自分のせいでアモルを苦しめたショックでエレテは後ろに倒れこむ。


「エ、エレテちゃん、大丈夫?」


シオンが手を出すが、エレテはショックで動けない。


「フフ……ありがとうございます。エレテちゃん」


「お前っ!」


ヒノが精いっぱい力を込め、炎魔法を放つ。

他の姉妹たちもそれぞれ魔法をアーマに放つが、アーマは軽々と手で払いのけた。


「無駄ですよ。万全の貴女たちならまだしも、弱体化している貴女たちでは――」


だがアーマはすぐに気付く。目前にいたアモルが消えている。


「おおおっ!」


「!」


背後に飛んでいたアモルが魔法弾を至近距離で放つ。

アーマも反応するが間に合わない。


「うぐっ……。弱体化しておきながらここまでの魔法を。ですが!」


傷を負ったが、アーマは構わずアモルを掴み投げ捨てる。


「いいでしょう。ここで一気にお終いにしてあげます!」


アーマが両手を掲げると、凄まじい魔力が収束していく。


「!」


アモルたち全員が気づく。

あれを撃たれたら皆、ひとたまりもないと。


「みんな、逃げ……うっ」


アモルが叫ぼうとするが薬の影響でふらついてしまう。

他の皆もそれぞれふらついたり倒れたりして動けない。


「死になさい!」


アーマの魔力が開放される。

逃げれない。誰もがそう思い、目を瞑るが……。


「……?」


轟音が聞こえる。だがまだくらってはいない。そう思いアモルが目を開けると――。


「ラ、ラヴ!?」


魔法陣に捕らわれていたはずのラヴが、アモルの前に立ち魔法を防いでいた。


「な、なにっ、いつの間に!?」


アーマも驚きを隠せない。


「さっきアモルが、あなたに魔法弾を当てたおかげでね!」


「あの時! ……だけど」


防いでいるラヴだったがジワジワ押され始めている。


「ラヴ、捕らわれていたあなたも全力ではないわね!」


「う、ううっ……」


どんどん下がっていくラヴに、アモルが近づこうとするが……。


「来ないでアモル!」


「な、なんで!?」


「アモルが来ても防ぎきれない。だから――」


ラヴは小さく呟く。

ラヴの声はアモルには聞こえなかった。しかし何を言っているのかはわかった気がした。


「ごめんね、アモル」


「え……?」


ラヴが力を込める。ラヴの全身が魔力で輝き始める。


「な、何をする気だ!? そんなことをすれば!」


アーマも驚きで声をあげるがもう遅い。

魔力を放っているのはアーマ自身なのだから。


「ラヴー!!」


アモルの叫びと同時に、ラヴを中心にアーマの魔力が拡散する。

それはまるで閃光のように。



生徒たちは成すすべなく、モンスターに蹂躙されていく。

助けに来た教師たちも嵐に飲まれる。

その日、学園はモンスターと嵐と魔力の光を受け崩れ去った……。

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