第11話 パーティーと不穏と
「あの子、アーマだっけ? よくわからないけど、絶対何かある!
お願い、アモル。わたしの言うことを信じて!」
保健室でラヴが、アモルに必死に訴えかける。
アモルもさすがに、ラヴの必死さに心が動くが……。
「わかった、わかったけどさ、ラヴ。
今からここを追い出すなんて、それはそれで酷くない?」
学園に連れてきたのはアモル自身だ。
それをいきなり追い出すのは当然ためらわれる。
「……そうね。アモルの言うこともわかるわ。なら!」
ラヴがアモルにビシッと指差した。
「アモル、ちゃんとあの子を見張ってて! わたしも協力するから!」
「う、うん」
「これは妥協だからね! 本当は追い出したいんだから!」
そう言うとラヴはベッドに横になった。
少しすると寝息が聞こえてくる。
それを確認するとアモルはアーマやシオンたちの所へ戻るため駆け足で行く。
(でも、ラヴがあそこまで気にするなんて、アーマ、彼女は一体……)
校舎近くで待機しているアーマを見ながら、アモルは冷や汗をかいていた。
だがそれからしばらく、ラヴの不安もアモルの心配も杞憂なほど、何も起きなかった。
アーマは、アモルの説得で学園側が入学を許可し、アモルと同じクラスになった。
モンスターの襲来での休校も無事に解除され、アモルたちはまたいつもの日常を過ごしていた。
「ねえ、アモルくん。ここ教えてくれな~い?」
「ちょっと、アーマ! アモルに変な近づき方しないで!」
「そ、そう! そういうの良くない……!」
アモルに近づくアーマと、それを止めるシオンとエレテ。
それを少し離れた所から睨むラヴ。と、さらに離れた場所から見つめる4属性姉妹。
一見、平和な時間が過ぎているように見えた。
そんな中、アモルたちの学園の長期休日が近づいてきた。
学園から離れ実家に帰ることもできる長期休日。
アモルとシオンも家に帰ることになっていた。
「そうですか。アモルくんとシオンも帰るんですね」
エレテは学園に残る組なので、少し寂しそうにする。
そんな時、アーマがある提案をした。
「ねえ、じゃあ休日前にみんなでパーティーしない?」
「パーティーを?」
アーマの提案にアモルが反応する。
「そう! 皆でパーティーをして長期休日前を盛り上げるの!」
「それは……」
アモルはラヴをちらっと見る。
ラヴはアモルに近づくと小声で囁いた。
「わたしも彼女を見張ってるから、アモルも油断しないならいいよ」
「そう? なら、アーマ。シオン、エレテも。パーティーする?」
「する!」
「……したい」
シオンとエレテが頷く。と、いきなり教室の扉が開き。
「オレ等も参加していいか!?」
「いいよね、アモルくん!」
「……パーティー参加」
「混ざっても構わないかな」
4姉妹が雪崩れ込んできた。
「先輩たちも……。まあ、いいですけど」
「ありがとう!」
そして長期休日の前日にパーティーが行われることになった。
パーティー前日、調理室。
調理室では女子たちが、パーティーのために料理やお菓子を作っていた。
4姉妹たち、ラヴはシオンと。そしてアーマはエレテと協力して料理をしている。
ラヴは時々、アーマの方を確認しながらも、基本的には料理に集中していた。
ラヴもシオンもエレテも4姉妹も、それぞれがアモルのために。
「エレテちゃん、これちょっと味薄くない?」
「え、そ、そうですか?」
味見をするアーマがエレテに呟く。
エレテは別の料理に取り掛かっていたので、アーマの方を見れずに言った。
「じゃ、じゃあ砂糖をスプーン一杯だけ足してもらっていいですか?」
「ん、わかった」
アーマは言われた通りに、砂糖を少しだけ足していった。
「ところで……」
砂糖を足したアーマがエレテの耳元で囁く。
「みんなもそうだけど、この真剣さ……。やっぱりエレテちゃんもアモルくんが好きなの?」
「……! ケホッケホッ! な、なんですか急に」
「こらこら。大声出すと他に聞こえちゃうよ?」
大人のお姉さん的対応で、アーマはそっと指でエレテの口を押える。
「そ、それは……。でもラヴちゃんやシオンちゃんがいるし……」
「フフ、関係ないわ。自分の思いが全てよ」
まるで大人の女性のような対応にエレテは思わず「は、はい」と頷いていた。
翌日のパーティーは大きな盛り上がりをみせていた。
お酒……は飲めないので皆ジュースで乾杯し、作ってきた料理を摘まむ。
「おらー、アモル飲め飲め!」
「飲んでますよ、 ヒノ先輩!」
「どう~、アモルくん楽しんでる~」
「楽しんでますけど、なんでスイ先輩酔ってるみたいになってるんですか!」
「……美味しい」
「フウ先輩も飲んでますね!」
「アモル。そんなに大声を出さなくてもいい……ヒック」
「アス先輩まで何で酔ってるみたいなんですか!」
「ねえ……アモル。わたしのこと好き~?」
「シ、シオンまで酔ってるの?」
「ね、ねえ、アモルくん。これ食べて?」
「エ、エレテ? 頂きます。……美味しい!」
「! よ、よかった」
皆それぞれ盛り上がり、アモルは油断していた。
ラヴとアーマがその場にいないのに気づかないほど……
学園校舎裏でラヴとアーマが対峙する。
「ラヴちゃん、こんなところに私を呼び出してどうしたんですかあ?
今頃、アモルくんも皆も料理食べ始めてますよ?」
茶化すように言うアーマだが、ラヴの表情は真剣そのものだった。
「アーマ。貴女はいったい何者なの?」
「何者って……アモルくんに助けられた一人の家出少女ですけど?」
「そんなわけない!」
ラヴの怒声が校舎裏に響く。
「みんなは感じてないみたいだけどわたしにはわかる。
貴女の奥にある禍々しい魔力。それは一体なんなの?」
「……」
アーマはその質問に少し間を置くと、口元を釣り上げた。
「さすが、見習いでも女神様は誤魔化せないわね」
アーマの声が突如、大人めいた女性の声に変る。
ラヴはとっさに臨戦態勢をとった。
「フフ……可愛い女神様。でもそんな構えじゃあ……」
アーマが指を鳴らす。突如現れた魔法陣がラヴを囲んだ。
「これは? うあっ!?」
「フフ、しばらくおとなしくしてて頂戴ね。ラヴちゃん?」
魔法陣に身動きを封じられたラヴ。
それを見るとアーマは高笑いしながら消えていく。
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