第3話 学園と同級生エレテ

それから数日。平穏な日が続いた。

アモルも記憶が上手く繋がり、無事に異世界に馴染んできた……と思っていたある日。


「そういえば二人とも。準備はどう? 進んでる?」


食事中、シオンの母が質問する。

アモルはすぐに何のことかが出てこなかった。


「学園に行く準備でしょ。バッチリ。アモルは?」


「え、あ、ああ。もう少し、かな」


ごまかしつつ、アモルは記憶から引っ張り出した。。

もうすぐこの家から離れ、町にある学園に通いに行くのだと。


「アモル、学園でもうちの娘をよろしくね?」


「もう、おかあさん!」


親にからかわれ顔を赤く染めるシオン。それを笑顔でアモルは見守る。




その日の夜。

アモルが荷物の準備をしていた時だった。

部屋の窓から『コンコン』とノックの音がする。


「え? ここ2階……」


とりあえず窓を開けるアモル。


「アーモルッ!」


窓を乗り越えるように、ラヴがアモルに飛びついてきた。


「ラヴ!? どこから入ってきてるの!? ていうかラヴは普段どこにいるの!」


「秘密! でも、もうすぐいる場所同じになるよ!」


「え?」


ラヴがその場でくるっと回る。

するとラヴの着ていた服が一瞬で制服に変わった。


「その制服って……」


「そう。アモルやあのシオンって子の学園の制服!」


「まさか……」


「うん! わたしも学園に通う!」


「……本気で?」


「もちろん!」


アモルは嬉しいような、複雑なような表情を浮かべる。


「でもなんで?」


「もちろん、アモルを見守るため!」


と言った後に少し顔を赤くすると。


「それと、一緒にいるため!」


と言って抱き着いた。


「う、うん。わかったよ。止めはしないけど……」


苦笑しつつも、アモルは嬉しそうにするのだった。




「いってらっしゃい! 体調に気を付けるのよー!」


「うん!」


「はい!」


「はーい!」


町行きの馬車に手を振るシオンの母。

返事の手を振る3人。


「……なんでいるの?」


シオンが同じ馬車に乗っているラヴを睨む。


「同じ学園に向かうからだよ?」


「……そうなの?」


シオンが今度はアモルを睨む。


「そうなんです……」


学園に来るのは知っていたが、同じ馬車で行くとは……。

と、アモルは頭を抱える。


「ラヴ……だっけ? アモルは渡さないから!」


シオンがビシッとラヴを指差し宣言する。


「ふふっ、いいよー! わたしも負けないから!」


ラヴは気にせずにそれを受け止めるのだった。




「「「学園についたー!」」」


3人は学園の前で喜びの手を挙げる。

ラヴもシオンも仲良く、気にせずに。


「えっと……あ、二人とも、クラスも一緒みたいだ」


「「わーい!」」


ラヴとシオンが左右からアモルに抱き着く。


「ちょ、ちょっと……二人とも、周りの人がみてるから」


二人を引き離しつつ、しかし手は繋ぎ、アモルは教室へと向かうのだった。




教室につくとさっそく、ラヴ、シオンは落ち込んだ。


「「アモルの隣じゃない……」」


と、二人そろって落ち込む。


「まあまあ、とりあえず席に座ろう。ね?」


そう言った後、アモルはラヴにこっそり囁く。


(ハーレムを目指すなら、他の子が隣の席でもいいでしょ)


(そうだけど……)


「じゃあ、また後で!」


アモルは二人を鼓舞すると、自分の席に向かう。


「ここだ。隣は……」


アモルの隣には、ショートヘアの女の子が本を読んでいた。

邪魔しちゃ悪いかなと、静かにアモルは横に座る。


「……あ」


隣の少女がアモルに気づく。

少女は少しアモルを眺めると。


「クラス票の前で左右から挟まれてた人」


と、小さく呟いた。

それを聞きアモルは苦笑する。


「あ、ボクはアモル。よろしくね。きみの名前は?」


「エレテ。よろしく、アモルくん」


そう言うと少女、エレテは本を読むのに戻る。




その後、教室で自己紹介や教師の話があり、初日の学校は終わる。

そして今度は学園の寮だ。当たり前だが男女別。


「「アモル―! また後で!」」


ラヴとシオンが手を振る。まるで今生の別れのように。


「アモル、いいよな、あんな子たちに好かれてて」


アモルの周りを他の少年たちが囲む。

さっそく一派閥が出来ていた。


「でも残念! ラヴちゃんの隣は俺!」


「シオンちゃんの隣は僕!」


聞いてもいないのに、自慢してくる少年たち。

無視して寮に入ろうとしたところで、大将らしき少年が言った。


「でもおまえの隣は、無愛想でブスのエレテ!」


「!!」


その言葉にアモルは振り向き睨む。


「会ったばかりだから詳しくないけど、少なくともブスは違うね」


それだけ言ってアモルは寮に入っていく。




その数日後、アモルはラヴとシオンに挟まれ、昼食を取っていた。その時……。


「本、返して」


アモルの耳にその声が聞こえた。


「ラヴ、シオン。ごめんちょっと……」


二人に謝りながら、アモルは駆け出す。


「返して」


「へっ! やだね、エレテの分際で!」


教室の隅で先日の少年大将が、エレテの本を取り上げている。


「やめなよ」


それをアモルは見過ごせずに声を掛けた。


「ああん? お前、この前の……」


「本、返してあげなよ」


アモルはただそれだけ言った。

だが少年は嫌味に笑いながら


「いやだって言ったら」


と本を持つ手を上にあげる。


身長は少年の方が上、アモルには届かない。

……と、少年は思っていた。


「……返せ」


アモルはそう言うと、すっと飛び上がり、少年の手から本を取り返す。


「なっ!?」


軽々取り返されたことに驚き、しかし少年は怒った。


「てめえっ!」


少年が殴り掛かる。

だがそれを、アモルはさっと避けると、その腕を掴み投げ飛ばした。


「おわっ!?」


倒れた少年に近づき、アモルは冷たい声で囁く。


「二度とこんなことするな」


「っ!」


少年は起き上がりつつ


「覚えてろ!」


と捨て台詞を残し走り去る。


「はい、本」


アモルは笑顔に戻るとエレテに近づき、本を手渡す。


「あ、ありがとう」


本を受けとり、自分の机に戻るエレテ。

それを見て、ラヴとシオンの所に戻るアモル。


その戻っていくアモルを、エレテが頬を染めながらこっそり見ているのを、アモルは気づかなかった。

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