第4話 契約の力

先日の一件以来、アモルの近くには、ラヴとシオンに加えエレテが来るようになった。


「でも、いいなー。エレテはアモルの隣の席で」


「エレテ、ラヴも! アモルは渡さないから!」


「わ、私はそういうのじゃ……」


三人の様子を、アモルは近くから微笑ましく見守っている。

しかし一方で、アモルには別に考えていることがあった。


(ラヴのおかげで、ボクはこの世界に転生したわけだけど……)


アモルは自分の身体を眺めたり、手を握ったりする。


(この前、エレテの本を取り返したときもそうだ。ボクにはこんな力はなかった。

生前の『護』の身体にも……この『アモル』の身体にも……)


いろいろ考えながら、アモルは一つ気がつく。


(そういえば……ラヴにキスされた後からかな。この力がみなぎるのは。

ラヴの契約って、もしかしてボクにも影響がある……?)


アモルがラヴの方を見ると、ラヴが微笑みながらこっそり手を振っていた。




昼休みに、アモルはこっそりとラヴを呼び出すと、先程のことを質問した。


「あれ、言ってなかったっけ? ……ああ! 言ってなかった! ごめん!」


ラヴは慌てながらアモルに頭を下げると、説明を始めた。


「アモルが愛を集めてくれると、わたしの女神の力が上がっていくの」


「それは、女神見習いからランクアップするためって……」


「それもなんだけど、女神の力が上がることで、契約者であるキミにも影響があるの。

だから、力が上がったのは、愛が集まってキミの力も上がった、のだと思う!」


(思う……?)


最後の一言が少し気になるアモルだったが、力が上がったことは間違いない。


(この身体で、ボクは、転生前の分も生きてみせる!)


アモルは自分に宣言する。

しかしまだアモルは知らなかった。自身が手に入れた力。その力量を……。




アモルたちが通う学園。

そこの授業は教科書による学習、体育、そして『魔法学』が存在している。

アモルは勉強こそ他の皆と大きな差はなかったが、体育、魔法学は別だった。



基礎体力測定――


「アモル君、まだ疲れてないのかい?」


「え? はい、まだいけますよ」


「いや、しかしねえ……」


教師が周りを見渡させる。

そこには、既にへとへとに疲れ切っている他の生徒たちが。


「あ、す、すみません。気づかなくて」


アモルは慌てて動きを止め、皆の中に戻るのだった。



魔法学――


「えー、今日は基本中の基本の魔法『ファイヤ』から教えていきます」


教師の説明の後、皆それぞれ、的に向かって『ファイヤ』を放つ。

アモルも、ラヴ、シオン、エレテに見守られながら、的に向かい手をかざす。


「ファイヤ!」


その言葉と共に放たれたのは間違いなく『ファイヤ』。しかしその威力が桁違いだった。

他の生徒の『ファイヤ』が的に当たって揺れるだけなのに対し、アモルの『ファイヤ』は的を吹き飛ばし粉砕していた。


周りの生徒の反応はそれぞれだった。

一部の生徒は驚き、恐怖、一部の生徒は、尊敬の眼差しを向けていた。




その夜、アモルはベッドで横になりながら一人考える。


(体育の時も、魔法の時も……これもラヴとの契約の力?)


アモルは天井に向けて手を伸ばす。


(ラヴと、シオン、エレテも? 三人だけでこの力。

もっと愛が集まったらボクはどこまで行くのだろう……)


アモルの中には不安があった。だが昂ぶりも存在していた。


(ラヴを女神にする。シオンもエレテも守る。ボクの力はきっとそのためにある!)


アモルが決意の拳を握る。

そして眠りに就こうとした時だった。


アモルの部屋の窓に小さく『コン』と音が鳴る。


「……? ラヴかな」


アモルが窓を開けると、目の前に物体が飛んでくる。

それをアモルは反射神経の良さで受け止めた。


「手紙……?」


アモルが手紙を開く。


『憎きアモルへ。学園の体育場で待つ』


「誰からか書いてないな……ん?」


『来なかったら、ラヴちゃんやシオンちゃん、エレテをどうするかわからないからな!』


手紙の下の方に書いてあるそれを読み、アモルは手紙を握りつぶした。




学園の体育場横の木。そこにはラヴとシオン、エレテがロープで結ばれ捕まっていた。


「「ちょっと! 放しなさいよ!」」


ラヴとシオンが叫ぶ。エレテは震えて声が出ないようだ。


「おとなしくしててくれよ~、ラヴちゃん、シオンちゃん。

今からアモルをボコって、真に強いのは誰か教えてやるからさ!」


話を聞かず一人で妄想する少年。

先日、エレテに嫌がらせをしていた大将少年であった。


「誰をボコるって?」


夜の月に照らされて、アモルがゆっくりと現れる。


「「アモル!」」


「アモル……くん」


「へっ! 待ってたぜ、アモ――」


大将少年の言葉を無視し、アモルは木に近づくと、ロープを一瞬でほどいた。


「ありがとう、アモル!」


「さっすが、アモル」


「ありがとう、アモルくん」


三人に感謝されるアモル。その後ろから大将少年が怒りながら拳を振り上げた。


「無視すんじゃねえっ!」


だが背後からの一撃を、アモルは振り向きながら軽く受け止め、逆に押し飛ばす。


「うおっ!?」


押し飛ばされ尻もちをつく大将少年だったが、怒りでしぶとく立ち上がり、アモルの方に向き直る。

アモルはその様子を、冷たい目で見ていた。


「ねえキミ。もうこんなことしないって約束して帰ってくれない?

そうしたらボクも、今日のことなかったことにするからさ」


アモルが淡々と言い放つ。

しかしその言い方が逆に大将少年の怒りに火をつけた。


「ふざけやがって! おい、おまえら!」


アモルたちの周りを、大将少年の下っ端少年たちが現れ囲む。


「……これは、隠れるのが上手いね、キミたち」


囲まれている状況ながら、アモルは思ったことをそのまま口走っていた。


「けっ、やるぞ、おまえら!」


大将、下っ端の少年たちが一斉にアモルに襲い掛かろうとした、その時。


「ファイヤ!」


「ウォータ!」


「ウインド」


「ストーン」


次々と魔法が放たれる


「う、うおおおっ!?」


手加減されているとはいえ魔法を受け、少年たちはそれぞれ吹き飛んでいく。


それをアモルたち4人は驚いて見ていた。


「大丈夫だったか?」


魔法を放った一人、赤髪の女の子がアモルたちに声を掛ける。


「あ、はい。ありがとうございます。えっとあなたたちは……」


アモルが聞こうとして、横にいたエレテが声を出した。


「1学年上のクラスの4属性姉妹……さん?」


その言葉に、姉妹はそれぞれ頷いて答えた。

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