第2話 女神ラヴとの契約と幼なじみシオン

「……なんで?」


アモルの問いが部屋に響く。

シオンの横にいるのは、普通の衣服に身を包んだラヴ。

『なんで?』とは『なんでここに?』といったところだろうか。


「アモル、この子、誰?」


シオンが不機嫌そうにアモルを睨みながら聞く。

シオンとしては、幼なじみの自分以外にこんな可愛い子がいるなんて聞いていない、といったところだ。


「アモルを助けたって言ってるんだけど……」


現実世界のこととはいえ、アモルがラヴに助けてもらったのは間違いない。


「えっと、まあそんなところ……かな?」


アモルはベッドから起き上がると、素早くラヴに近づき。


「ごめん、シオン! ちょっと二人だけで話させてね!」


そう言って、ラヴの手を引きながら外に出ていく。


「なんなの、いったい……」


不満そうにシオンはアモルを見送った。




「で、なんでここに?」


「なんでって、話の続きをしにきたの」


「話って……」


アモルも、転移させてくれた礼は言わなくてはいけない、とは思っていた。

だが、他に話があるのかと疑問に思う。


「契約の話の続き!」


「契約って……あのキス? まだ何かあるの?」


ラヴは勢いよく頷くと説明を始めた。


「あのね。異世界に送るために契約したんだけど、タダじゃないの」


「えっ」


そんなの聞いてないとばかりにアモルはラヴを見る。


「安心して! 悪いことにはならないから!

アモルにはね、わたしのお手伝いをしてほしいの」


「手伝い?」


「そう! 正確には、わたしが女神見習いからランクアップするための協力!」


それくらいなら……とアモルは「わかったよ」と頷いた。


「で、なにをすればいいの?」


「それは――」


ラヴはすっと近づくとアモルに再び口づけした。


「っ!? なになに!?」


動揺するアモルに、ラヴは顔を赤く染めながら言う。


「アモルには『愛』を集めてほしいの」


「愛……?」


「言ったと思うけど、わたしは『愛』と『生命』の女神……の見習い!

わたしの契約者として、アモルには愛を集めてほしいの」


「でも愛って、具体的には?」


問うアモルに、ラヴは手を大きく回しながら言った。


「わかりやすく言うと、ハーレムを築くってこと!」


その答えにアモルは咳き込んだ。


「ハ、ハーレムって……」


「愛を集めるの! それくらいしなきゃ! 話終わり! それじゃあ――」


ラヴはアモルを回らせ、シオンの家に向ける。


「まずはあの子の愛を手に入れておいで!」


そう言ってアモルの背中を勢いよく押した。




「あら、アモル、おかえりなさい」


シオンの母、アモルにとっても育ての親が笑顔で出迎える。


「アモルも隅に置けないわね。いつあんな可愛い子と知り合ったの?」


「ははは……」


苦笑でごまかしつつ、アモルは本題に入る。


「あの、シオンは……?」


「ああ、部屋に戻ってるはずだよ」


それを聞くと、アモルは急いでシオンの部屋に向かう。




「シオン。いるよね?」


アモルがノックしながら部屋内に呼びかける。しかし返事はない。


「シオン? 入るよ」


アモルが部屋を開けると、そこには枕で顔を隠すシオンの姿が。


「シオン? あの、さっきの子、ラヴって言うんだけど、話終わったから……」


「……キス」


「え?」


シオンが枕をどけて顔を見せる。

その表情は、怒りとも、何か恥ずかしいとも、言える赤さで染まっている。


「さっきの子。ラヴ?とキスしてた」


「見てたの? えっと、あれは……あいたっ!?」


アモルの顔に枕が直撃する。


「アモルのバカ! エッチ! スケベ! すけこまし!」


「ちょっ、シオン、話を聞いて。あとすけこましってどこで覚え……。痛い痛い!」


落ち着くまでアモルはシオンに物をぶつけられまくっていた。




「というわけで、あの子は女神様なんです。ボクを助けてくれました。それ以上はありません」


「……」


シオンの前で正座しながらアモルは事情を説明した。

もちろん、転移してきた、などは言わなかったが。


「……嘘っぽい」


「……だよね」


アモル自身もそう思っている。

女神だのハーレムだの信じられないだろう。


「でも……」


「うん?」


シオンはアモルに笑顔を向けて言った。


「アモルは嘘はつかないってわかってるから」


その笑顔にアモルはドキッとする。

転移で記憶が混ざっているとはいえ、幼なじみの少女の可愛い笑顔だ。

まだ少年のアモルはドキドキするしかない。


「でも!」


急にシオンが睨みながら叫んだ。


「あの子が神様でもいいし、ハーレム?を作ってもいいけど――」


シオンはまだハーレムの意味がよくわかっていない。

が、顔が赤くなりながらシオンは言葉を続けた。


「アモルは渡さないからね!」


そう言うと、シオンは布団に潜って隠れてしまった。

恥ずかしすぎて出てこれないのは、アモルにもわかった。





「あらあら」


部屋の戸の前でシオンの母が笑顔で様子を見ていたのは、アモルもシオンも気づいていなかった。

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