ラヴファンタジッ!
七霧 孝平
第1話 護、転生者アモル
「ゴホッゴホッ……」
巨大病院の一室。ベッドで横になり咳き込んでいる少年。
少年『護(まもる)』は謎の不治の病に侵され、余命はわずかだと診断されている。
両親は行方不明。施設で育った護には、施設の職員くらいしか見舞いには来ない。
だが護は気にしていなかった。幼いころから大人びていた護は、このまま死んでも構わないと思っていた。
だが、そんなある日……。
「う……ん……」
護が目を開けると、そこは真っ白な空間。いつもの病室ではない。
すぐに護は感じた。「ああ、これは夢だ」と「あるいは天国に来たのかな」とも。
「う~ん。夢といえば夢かな? でも天国じゃないよ?」
突然、空間に可愛らしい声が響く。
「誰?」
驚きはせず、淡々と護は質問する。
「あっれー? そこはもう少し驚いてほしいなあ」
声が響くと、護の目前に光の玉が現れ輝きだす。
輝きが収まると、そこには桃色の長い髪の少女が立っていた。
「……きみは?」
無感情で発せられる問い。
「もう! なんでそんな覇気がないの!
わたしみたいに可愛い子が目の前に来たらもっと喜ぶとか、赤くなったりするでしょ!」
「……可愛いのはわかるよ。でもきみみたいに可愛い子に会っても意味ないから」
それを聞くと少女は真面目な表情になり聞いた。
「もうすぐ死んじゃうから?」
「そうだよ。ボクだってきみみたいな可愛い子と出会えたことに喜びたいよ。
でもボクはもうすぐ死んじゃうから。意味なんてないよ」
それを聞くと少女は後ろを振り向きながら。
「ふっふっふ。じゃあもし生きれるなら。君は素直に、欲望に正直に生きるかい?」
「何言って――」
護の言葉を遮るように、少女は護に向かって光を放つ。
「これは……」
「どう? 夢の中だけど身体の苦しさ、消えたんじゃない?」
護は頷く。
「その光はね、異世界の物なの」
「異世界……?」
異世界という単語自体は、護も知っていた。
だが実際に自分が浴びた物が異世界の光と言われてもピンとこない。
「君を苦しめていた不治の病。正確には病じゃないの。この世界、仮に『現実世界』と呼ぶわ。
現実世界と身体の相性が悪い者に稀に起こる世界のシステムみたいなものなの」
「じゃあ……」
「そう。このままだとどうあがいても死ぬのは確定」
「そうなんだ……」
希望が見えたと思ったが、また絶望に護は顔を落とす。
「待って待って! 続きを聞いて! 確かにこのままだと君は死ぬ。だからわたしが来たの!」
「え……?」
「さっきの異世界の光で苦しさ消えたでしょ? それは君と異世界の相性が良かったから。だからね――」
少女が護に手を伸ばす。
「君がいいなら、わたしが異世界に案内してあげる!」
手を伸ばす少女の表情に嘘偽りはない。護は直観的にそう感じた。護には少女が神々しく見えていた。
「きみは一体……」
「わたしは愛と生命の女神……の見習いの『ラヴ』!」
「女神……」
護に少女が神々しく見えたのは当然だった。本当に神様だったのだから。
「で、どうするの?」
「ボクは……生きれるなら異世界に行きたい!」
「よーし、決まり! じゃあいくよー!」
ラヴは目の前に魔法陣を描く。
「君は異世界のとある村の少年になる! 名前は……『アモル』!」
「アモル……」
復唱している護に、ラヴが近づく。そして――。
「アモル!」
「うん? っ!?」
ラヴは不意打ち気味に、護に口づけした。
「な、なにを!?」
「ふふっ、契約かな。わたしと護……アモルを繋ぐ契約」
「契約って――」
問い返そうとする護だったが、突如ふらついた。
「あ、そろそろ転移が始まるよ」
ふらつく護を支えながらラヴが言った。
「転移したての頃は記憶がごちゃごちゃするけどすぐに慣れるから。またね!」
その声が聞こえるか聞こえないかというところで、護の意識は完全に消えた。
「―ル! ――モル!」
声が聞こえた。ラヴではない。別の女の子らしき声。
「――モル! アモル!」
「う……ん……」
護、いやアモルが目を覚ます。
病院ではない。見たことのない天井。
「よかったぁ。アモルが気づいた」
アモルはベッドに横になっていた。その横には少女がいる。
ラヴとは違う。後ろで髪を束ねた女の子。
「えっと……」
アモルは少女を見る。
少女も不安そうにアモルを見る。
「ど、どうしたのアモル? やっぱり頭ぶつけた?」
「いや……」
アモルは混乱している頭を整理する。
女神見習いのラヴに異世界に転移させてもらった。アモルという名になった。
そして……。
「大丈夫だよ。シオン」
少女に向けてそう呟いていた。
「!」
少女、シオンは嬉しそうに回りながら「おかあさーん!」と叫びながら部屋を出ていく。
その間にアモルは情報整理の続きを始める。
「ボクはアモル。この世界に転移してきた護。
さっきの子は、ボク、アモルの幼なじみのシオン。孤児のボクを引き取ってくれて一緒に暮らしてる
シオンがボクを心配していたのは、ボクが木から落ちたから。よし、だいぶわかってきた」
情報を整理していると、部屋に足音が近づいてくる。
またシオンかな、とアモルが思っていると。
「……」
「……」
確かにシオンだった。だがもう一人いる。シオンの母ではない。
「……なんで?」
シオンの横には普通の少女っぽい姿のラヴがいた。
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