第5話
一度は諦めかけたが、諦めが悪いのがなんとかする男。剣やらで物理的に殴りにいくのはすなわち死を意味する。何か、何かないか?一縷の望みをかけてふところを探る。
だめだ。
「チクワしか持ってねえ・・・!」
さっき毒チワワに投げた残りのチクワくらいしか、めぼしいものはなかった。
こうなったらヤケだ!ええいままよ!
チクワをサンダーポメラニアンに投げつける。
「なんとかなれーーー!」
このセリフ、なんかちいさくてかわいい感じだが、今の俺の姿はちいさくもかわいくもないし、猫ですらないので大丈夫だ。問題ない。
ジュッ、と音がして、チクワはサンダーポメラニアンの火花に焼かれ、焼きチクワになった。チクワは元々焼いてあるものという指摘はここでは受け付けない。とにかく、チクワが焼けたのだ。
香ばしい香りが辺りに漂う。食欲をそそりますなあ。
「さすがにチクワはサンダーポメラニアンには効果がないか・・・」
俺が「なんともできない男」になってしまいかけていたその時、辺りをうかがっていた子どもが冷静に告げた。
「待って。何かの鳴き声が聞こえる。こっちに近づいてきてる」
甲高いキャンキャンという声が次第に近づいてくる。それも一つではなく、複数・・・
俺たちは顔を見合わせる。
「まさか?」
「焼けたチクワのにおいに誘われて?」
「来ちゃったのか?」
そうです、やってきました、毒チワワ!!
いや、まだゲーミングチワワのままだ!
クルクル回ったり、激しく尻尾を振り回してたり、眩しくてかなわない。
ゲーミングチワワたちは、香ばしくなったチクワの周りを高速で走り回る。
負けじとサンダーポメラニアンも高速で回転する。
どちらもまばゆい光を放つ!目を開けていられない。
激しい光と風のぶつかり合い!
ブォォォォ!キャンキャン!
ゴオオオオオ!ヒャンヒャンヒャン!
ブォォォォォォ!キャンキャンキャンキャン!
ゴォォォォオオオオ!ヒャンヒャンヒャンヒャンヒャン!
ブォォキャン!ゴォオヒャン!
ブォゴォ!ヒャンキャン!
も う わ け が わ か ら な い !
俺たちは吹き飛ばされないように地面に必死にしがみついた。
いつしか風は止み、あたりは静けさを取り戻していた。俺たちはそっと顔を挙げ、辺りを見渡した。
そこには、すっかり目を回して伸びているサンダーポメラニアンと、ゲーミングチワワたちの姿があった。この勝負、さしずめ引き分けってところかな。
両者の顔は、やり切ったという清々しさに満ちていた。
「な・・・なんとかなった・・・」
「・・・なっちゃったね」
チクワのおかげで、またもやなんとかなってしまった。かろうじて俺はまだ、なんとかする男でいられるようだ。
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