それはとても、悲しい話だった
情報をまとめてみた
ハウダニット、フーダニット、ホワイダニット
「とりま、今日出た情報まとめてみるか」
皆が帰ってから、俺とサチは出てきた情報をまとめていた。
サチが納屋から、ホワイトボードを持ってきた。
磁石で貼り付けるネームプレートに、『HOW』『WHO』『WHY』と書き込み、貼り付けた。
「確実な所からまとめてみよう。まず『HOW(どうやって)』。チカに電話したやつがいじめっ子を名乗り、チカに会いたいと言った。
その後タケルが邪気を視てるし、天ちゃんが『呪いは「言霊の力」を意味する』っつってたから、この電話が『呪い』なのは確定だろう」
そう言って、サチは『HOW』の下に、『電話』と書く。
「次に『WHO(誰が)』。その『呪い』をかけた人物は誰なのか? ってことだ。ここで容疑者が三人に分けられる。
①いじめ被害者、②ビジネスを引き受けた第三者、そして最後が、③あたしたちが会った女の子だ」
「いじめ被害者については、トモチカさん、話すことはなかったな」
「まー仕事上のコンプライアンスかもしんねーけど、基本アイツ、カミングアウトが嫌いだからな。自分が散々されて来たから」
サチはそれ以上のことは言わなかった。何か事情があるんだろう。
「で、②の人物もイマイチわからない。一番詳細がわかるのは、③の女の子だ」
キツネ耳としっぽを持つ少女。
俺は彼女のことを、人に視えるほど力が強い妖怪だと思っていた。
けれど、天狗の言葉で別の可能性が出てきた。
キツネと人の子。――妖怪と人間の子ども。
「サブカルチャーだと半妖と言われるけど、人に対して『半分』とか言うの失礼だよな。彼女的には人じゃなくて『妖怪』、あるいはどちらもかもしんねーけど」
サチがそう言いながら、『年齢:あたしらと近い』と書き込む。
「彦姫町の小学校は、全部で四つ。そこから、あたしらと同学年か一つ下、上ぐらいを当たれば見つかる……と信じたいが」
「他の小学校の子を探すって、俺たちに出来るのかな?」
学校があるならまだしも、今は夏休みだ。
それに、個人情報の取り扱いが厳しい今、調べられるとはとても思えない。
「ダメもとで、校長先生に聞いてみるか。今ならまだ、学校で働いてるはずだし」
「そう言えばサチって、校長先生には懐いているよな」
サチは大人にとても厳しい。先生に注意しても、すぐに反論する。それでますます先生に睨まれるが、サチに『説教』は通じない。
サチが素直に言うことを聞くのは、ミドリさんとマサツグさん、そして校長先生だ。
いや、素直に聞くっていうのは違うか。言われたら、「まあ考えておく」と『とりあえず』聞いたことにする。その後行動を変えることは今のところない。
けれど、ミドリさんもマサツグさんも、彼女の行動を変えようとはしなかった。
もっとキツく言わないんですか? と言ったことがあるけど、『キツく言ったところで変える子か?』と返され、そうだな、と納得した。
校長先生からは、『あの子は、天上天我唯我独尊だから』と言われた。
調べたら、お釈迦様が生まれた時につぶやいた言葉らしい。意味は、『世界の中で我のみが尊い』。――校長先生が一生徒に言う言葉だろうか。
「まあ、校長先生っていうよか、近所のおばちゃんっていうか。チカの母さんなんだよな」
「え、あ、そうだったの!?」
だからトモチカさんの家を知ることが出来たんだ。
「とりあえず『WHO』は置いとこう。
一番わからないのは、『WHY(どうして)』だ。
これは今回、天ちゃんの指摘で二つ出てきた」
一つはサチが唱えた『ビジネス』説。
もう一つは、『願いを叶えるための代償』説。
「ビジネス説を唱えた言い出しっぺとしてはアレだけど、今のあたしとしてはこっちの方もありえそうなんだわ」
そう言って、サチは「『願いを叶えるための代償』説」と書かれた場所を、ノックするように叩く。
「……誰かを呪いたいほど、叶えたい願い事ってなんなんだ?」
俺の言葉に、さあね、とどうでもいいようにサチは返す。
「とりあえず、お前は明日、校長先生に会いに行ってくれねーか?」
「サチは行かないのか?」
「あたしは気になるところ探してくる。ってなわけで、これ貸す」
そう言って、サチはスマホを渡してきた。
サチのスマホとよく似ている。けど、まさか自分のスマホを貸す人はいないだろう。かと言って、サチがスマホを買えるほど金持ちとは思えないし……。
「……ミドリさんかマサツグさんのを盗んだの? ダメだろ、いくら親子だからって」
「あたしのだよバカヤロウ」
サチがはあ、とため息をついた。
「お前、タブレットでWiFiの設定とか出来ねーだろ。チャット欄作ったから、困ったらここに書き込んで連絡しろ。スマホのパスワードは――」
「ちょ、ちょっと待って!」
なんか大変なものを預けられている。
「そんなに俺を信じていいのか? 俺が壊すかもしれないのに」
「壊れたらそん時だろ。母さんたちが苦い顔するとは思うけど、お前を怒鳴ったりはしないって」
そ、そんなあっさり。
緊張の汗で滑って、スマホを落としてしまいそうだ。
「あと、もう一つ頼みがある。というか、注意点だ」
「注意点?」
ああ、とサチは言った。
「お前の担任。クマカワに気をつけろ」
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