あの子は一体?

呪いの種類

「てなわけで、あたしらよか『呪い』に詳しそーな三人を連れて来たぞ。あ、数え方って『人』で大丈夫?」

 サチの言葉に、三者が「いいよー」と口を揃える。

「まず、日本妖怪の代表的存在『天狗』の天ちゃん。気に入った人間に『呪法』を授けるって聞いてるから、頼りにしてる」

「おう! 任せろ、サっちゃん!」

 サチの言葉に、力強く天狗が胸を叩く。

「次に、『呪い』の代表的存在、髪が伸びる人形、ゴンさん」

「……」

 虹色に輝く髪を持つ市松人形が、何か言いたげな顔をしていた。多分「ゴンさん」と呼ばれるのが嫌なんだろう。俺も、女の子なのにその厳つい名前はどうなんだと思う。

「最後、柿の妖怪タンちゃん。今日来てくれてありがとなー」

「微力ながら、精一杯お力添え致すっ!」

 深々とたんたんころりんが頭を下げた。

 ……確か前、俺たちに食べられたはずなのに、なんで生きて(?)いるんだろう。「悔いは無い」って言って、成仏(?)したはずなのに。

「柿としての生を全うした後、天満神社の神使として抜擢されたのでござる。これもタケルどのとサチどのが、拙者の願いを聞いてくださったおかげ。この御恩、必ずやお返しいたしたいと駆けつけた次第でござる!」

「そ、そうなんだ……」

 柿の妖怪も聞いたことがなかったけど、柿の神使はさらに聞いたことがない。俺が知らないだけで他にもいたりするんだろうか。

 というか、『呪い』関係なくない?

「で、コイツがチカ。まー、あたしの身内みたいなもんだから、よろしく」

「その男、まだ意識が遠そうだけど、大丈夫?」

「ごめんなゴンさん。そういやコイツ、ホラー耐性激弱だったわ」

 トモチカさんは、何とか意識を取り戻した。ただ、あまり直視したくないのか、三者から視線を逸らしている。

「す、すまん……ちょっと、あの、色々驚いてだな……」

「別にそんな怖くないだろ、天ちゃんもゴンさんもタンちゃんも」

「いや食べるはずの柿に顔があって喋ってたら、フツーは怖いんだわ」

 普通の人は怖いんだ、たんたんころりん……。

 するとたんたんころりんが、申し訳なさそうに声をかけた。

「トモチカどのの負担になるなら、拙者は席を外しても」

「いや、失礼した。大丈夫、慣れる」頭を押さえながら、トモチカさんは言った。「童心に帰って、食べ物で出来たヒーローを思い出してみる」

「で、あたしら『呪い』についてはほとんどわからないんだけど、そもそも『呪い』ってどんな種類があるのか知りたくて」

 サチの言葉に、そうだな、と天狗が顎をさする。

「そもそも、『呪』というのは、悪いものを指すものじゃあない。言霊の力を意味するものだ。例えば『名前』も呪の一つだし、祝詞も『呪』の一つだ。『祝』と『呪』の漢字が似ているのは、もとはどちらも『口に出して言う』ことが起源だからだ」

「え、そうなの?」

 俺は思わずサチを見る。サチは、「ま、そうだろうな」という顔をしていた。

「今人間が言う『呪い』は、主に『祟り』を意味するものだ。本来、この二つは全くの別物だったんだが、そのうち混ざるようになり、『祟り』を引き起こす『呪い』が誕生した。そのうち、特に有名になったのが『人形』だな」

 ポン、と天狗が人形の肩を叩く。

「元々、人形とは人の厄を肩代わりするためのものだった。それが何時しか、呪いをかける道具になり、やがて人形自体が呪いをかけるようになった。

 特にコイツは『人形神ひんながみ』だからな。欲望を叶えるために、人間から代償を奪う」

 そう。この人形、どこからかサチが拾って来てたんだが、幸村家に来た途端喋りだし、「願い事を言え」と要求してきた。

 さすがに怪しかったし、サチもこれには乗らなかったんだが、痺れを切らした人形が髪を伸ばし、サチの首を絞めて脅そうとした。

 ……が、天狗によってすでに怪力を得ていたサチは、ぐわし、と髪を掴み、ブンブンと振り回し、髪の毛をむしり取った。呆気なく人形は敗北。サチが「そんなに願い事が欲しいなら言ってやんよ」と言い放ち、叶えられた願い事が「お前の髪色ゲーミング色に変えろ」だった。

 ――こうして、初めて会った時は黒炭のように黒かった髪は、虹色に輝く髪になった。

「まあ、コイツの場合はちと特殊だが。人形神は本来は裕福になりたい、物欲を満たしたいって願うやつが作る人形なんだ。そしてそういうやつは、他の人間を犠牲にして願いを叶える」

「つまり、『呪い』は副産物で、本当の目的は『願い事』を叶えるため……ってパターンもあるのか」

 サチの言葉に、「そういうこった」と天狗は言った。

「富を得るために呪うパターンは、人形の他にも、動物がいるな。

 例えばキツネとかが有名だ」

 頭の中に、ある人物が浮かぶ。

 それは市立図書館の前で出会った、キツネの耳としっぽを持った女の子だった。

 隣を見ると、サチの表情も強ばっていた。まるで肉食獣が獲物を見つけた時のような目に変わっている。


 まさか、あの女の子が、『呪い』をかけた張本人ってことはないだろうか。


「キツネと言えば、人間と契りを交わした者も多いでござるな」

 たんたんころりんが言った。

 ああ、と天狗が答える。

「そう言えばここ最近、キツネと人の子が産まれたって聞いたな。

 確か年頃は、サっちゃんと同じぐらいじゃなかったか?」

 俺とサチは、お互いの顔を見合せた。

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