電話での呪い?

「これさ、チカのアカウントだろ」

 サチがさきほどのアカウントを見せる。トモチカさんが目を見開いた。

「なんでお前が俺のアカウント知ってんだよ」

「いや、『リンゾー』作ったのチカじゃん。わかるわ」

 サチ曰く、アイコンに描かれた猫は『リンゾー』と言われる林原森林公園のゆるキャラで、トモチカさんが作ったキャラクターが採用されたのだという。

 毎年森林公園のゆるキャラは更新されており、現在は別のキャラクターがゆるキャラになっているため、現在『リンゾー』を知る人はそういないだろう、とのことだった。

「……いや、それ採用された時、お前三歳ぐらいだろ。なんで覚えてんだよ」

「三歳の時ぐらい覚えてるだろ、フツー」

 いや、俺は覚えてないよ、サチ。

 そろそろサチを見てると、「普通」の定義がわからなくなるというか、どうでもよくなる。

「それはどうだっていい。お前、ここ最近起きてる『事故』について、なんか調べてんだろ」

 サチが見せたものは、今回の事件は『呪い』だと主張するオカルトアカウントの投稿。

 その下に、『リンゾー』さんの返信がついていた。

「それっぽく考証立てて『呪い』だって言ってるやつに、それとなく探りを入れてる。なんか心当たりがあるんじゃねーの?」

「……それがどうしたってんだよ」

「知ってること全部吐いてもらうぜ」

 悪の組織かな?

 話がややこしくならないよう、俺が黙って心の中で突っ込む中、トモチカさんがはあ、とため息をついた。

「あのなあ。この現代に、『呪い』なんてあるわけねーだろ。

 俺が調べてんのは、オカルト的な不安をつけ込んで、中学生とかにちょっかいかけている奴がいるんじゃないかって可能性だ」

「ふうん。ってこたぁ、中学生で噂になってんのか」

 すかさずサチが突っ込む。

「そういや、市立図書館の被害者は中学校の教員だったよな。チカ、ちょっと前に――」

「ともかく、サチ、お前は首を突っ込むんじゃない」

 トモチカさんがサチの言い分をさえぎった。

「お前が何を企んでいるのか知らんが、人の命と尊厳がかかってるんだ。ただでさえ被害者の個人情報が漏洩してるってのに、軽い気持ちで面白おかしく掻き回すんじゃない」

 厳しく言うトモチカさんに、サチは特に表情を変えることなく黙る。

 その時。

 ブーブー。

 充電されていたスマホが、床の上で振動する。

「もしもし」

 トモチカさんがスマホをとった。俺たちのいるリビングから離れる。

 しばらくして、トモチカさんが戻ってきた。


 ……俺はそれを見て、目を疑った。


「俺、今から人に会いに行くから、お前ら帰れ」

「えー」

「えーじゃねえわ。おら。ってかサチ、なんだその髪色」

「今更かよ」

 トモチカさんに押されて、俺たちはトモチカさんの部屋から出る。

 パタン。

 閉められたドアを見て、サチが呟いた。

「大した情報が入らなかったな。今日は帰るか、タケル」

「……いや。このまま、トモチカさんを尾行しよう」

 俺の提案に、サチが目を丸くした。

「珍しいな、お前がそんなこと言うなんて」

「邪気が視えたんだ」

 俺の言葉に、さらにサチが目を丸くした。

 部屋に入れてくれた時にはなかった。けれど電話が来て、通話が終わった途端、トモチカさんの顔が塗りつぶされるほどの邪気が漂っていた。





「電話で呪う方法なんてあるのか?」

 俺が尋ねると、さあ、とサチが返す。

「けど、見たら呪われるビデオなんてホラー映画の金字塔なわけだし、電話でも行けるんじゃね? 多分。

 それよか、どーしてチカが呪われたかが問題だ」

「見えたのは邪気で、本当に呪いかどうかはわからないけど……」

 もし、今までの事故のようなことが起きるなら、放っておけない。

 俺たちはこっそり、トモチカさんをつけていた。

 交通機関を利用する人でよかった。車だったら、運転できない俺たちじゃお手上げだ。サチはカツラを脱いで、俺は帽子をかぶる。と言っても、服は変えられなかったし、バスの中はスカスカだから、バレてもおかしくなかったんだけど。

「なーんか心あらずって感じだよな、周りのこと見えてねーって言うか」

 サチの言葉に、俺は頷く。

 トモチカさんは狐塚にある狐塚駅で降りて、そのまま駅前を歩いていた。部屋にいた時はそんな感じはなかったが、今のトモチカさんはフラフラしているというか、地に足がつかない感じだ。

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