SNSでの調べ物

 学校で使うこと以外、俺はあまりタブレットを触らない。パソコンもゲームもあまり触らないし、もちろん持っていないのでスマホも使わない。

 一方、サチはかなりのゲーマーで、俺をよく対戦ゲームに誘ってくる。なんなら学校から支給されているタブレットには、ソーシャルゲームがインストールされている。……学校のタブレットって、ゲームが出来ないようになってるんじゃないっけ?

 サチは検索エンジンから、SNSツールに移動し、そこからまた検索をかけた。

「基本あたしもイベ情報か推しのCPを検索するぐらいだけど、こういう事件に関する噂話もあるだろ、多分」

 なるほど、言っていることがわからない。検索はサチに任せよう。

 サチは慣れた手つきで検索ワードをいくつも掛ける。するとあっさりと、それは見つかった。

 投稿されたポストには動画が貼り付けられていた。どうやら、爆発事故が起きた当時のものを、誰かが撮影していたらしい。

「ったく、動画載せるとか、住所を特定されるとか思わねーのかな」

「ここが、爆発が起きた現場か?」

「そ。デジタル媒体からでも、邪気があるとか分かるか?」

 サチに言われて、俺は目を凝らす。

 いや、凝らさなくてもわかった。出来れば、見たくなかった。


「……ある」


 俺には、事件現場がよく見えない。なぜなら、吐き気を催すような邪気が、画面の殆どを覆っていたからだ。

 スプレー缶を不法投棄しただけで、こんなものが残るとは思えない。

 他の事故も検索を掛けてみたが、写真や動画と言ったものは見当たらなかった。

 ただ、爆発事故に関しては、気になるものがもう一つ見つかった。インターネットのニュース記事にはなかった、被害者が務めていた会社の名前があったのだ。

 サチが顔をしかめる。

「人の個人情報、なんで漏らすかなー」

 なんて言いながら、サチがどんな会社か検索をかける。

「会社も調べるの?」

 俺がそう言うと、「一応な」と、サチが言う。

 会社のホームページから、検索エンジンによるグッドレビューなどが見つかった。

「見たところ、普通の会社みたいだけど……」

「んー」

 サチが、「労働基準法違反 企業名 公表」と検索を掛け、一番上にあったファイルをダウンロードし、そこから更に検索をかけた。

「この会社、労働基準法違反に引っかかってんな」

「サチ……すごいな」

 厚生労働省が公表しているファイルから調べるとか、俺には全く思いつかなかった。

「労働安全衛生法第100条」の違反がなんの違反にあたるのか、俺にはわからなかったけど、その隣の欄の内容は俺にもわかった。

 労働者死傷病報告書の虚偽内容。仕事場で怪我人や怪我人、病人が出たにもかかわらず、嘘をついたということだ。

「へー、労災かくしか。ふーん。タケルが邪気を感じた以上、爆発事故も恨み辛みの『事件』の可能性があるってこった」

「でも……こっちも図書館の件と一緒で、スプレー缶を捨てた人と、被害者にはなんの関わりもなかったんだよな」

『呪い』がどんなものなのか、俺には想像がつかない。呪う方法なら、かろうじて丑の刻参りの藁人形を思いつくけど、呪った結果、どんな風に呪われるのかはわからなかった。

 たまたま人の不注意や不始末を、被害者が受ける呪いなんて、あるんだろうか。

「まあ、古典的なのは病死したり、雷が落ちてきて死んだりするんだろうけど……日常的に流行病や異常気象が起きるこの現代じゃ、その程度で『呪い』だと思うのは無理だわな」

 見な、とサチが言う。

「病気や自然災害とかじゃなく、人が引き起こした『事故』だからこそ、呪いだと思うやつがいる」

『こんなでっかい事故が偶然立て続きに起きるとか有り得る? 呪いじゃね?』

『この町やっぱ呪われてるって』

 スクロールすると、確かに『呪い』という言葉がチラホラ見える。

「ただでさえなんも無い田舎で、連日でっかい事故が起きてるんだ。不安になるやつもいるだろーな。面白がるやつもいるだろうけど……ま、それより」


 トン、と丁寧に磨かれたサチの爪が、ある所をタップした。


「この中に、見知ったアカウントがあるんだよな」

「え?」

 アカウント名は「リンゾー」と書かれたもの。

 アイコンには可愛らしい猫のゆるキャラがついている。

「コイツがチカだ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る