第14話 目に見える成長
「お、新しいクワガタがいるじゃん」
井矢田からLINKがあったことなどすっかり忘れ、俺はプライベートダンジョンを
新発見のクワガタを捕まえ、さっそく魔石化する。
ボワン!
図鑑No.57/251
名前:糸切りクワガタ
レア度:0
捕獲スキル:???(条件:クワガタ種を3種捕獲)、防御+2(初回ボーナス)
捕獲経験値:150
ドロップアイテム:魔石(小)
「……よし」
これでクワガタ種を2種類捕まえたことになる。
こうなると、「3種捕獲」を達成するとどうなるか気になるな。
「……今日はクワガタを狙ってみるか」
森を中心に探索してみよう。
俺は木々に新しいクワガタがいないかよく見ながら、ゆっくりと小道を歩いていった。
途中で、過去に捕まえたことのあるクワガタやカナブンを見つけ、魔石化していく。
「なかなか新しいやつはいないな……」
バッタを100匹捕まえるのよりも時間がかかるかもしれない。
しかし、まったく苦にはならない。
クワガタ3種捕獲で手に入るスキルへの期待が、負担に思う気持ちを大きく上回っている。
どんなスキルかわからないけれど、習得がとても楽しみだ。
ビンゴカードにリーチがかかっているような気分になり、木に止まる虫の姿を見るたびにワクワクしてしまう。
「ほかのダンジョンでも使いやすいスキルが覚えられるといいな。攻撃スキルがベストかな……」
――それにしても、自分の成長に期待するのなんて、いつ以来だろう。
10年以上、忘れていた感覚だ。
思い返せば、歳をとるにつれ、俺の自分に対する評価はどんどん下がっていった。
秘密基地で遊んでいたころは、ただ毎日が楽しかった。
誰と何を比べるわけでもなく、心の
しかし、少し大きくなり、自分が天才ではないことを知った。
中学に入り、ダンジョン適正国民検査を受け、自分が凡人・無能と呼ばれる人間であることに気がついた。
そして、高校・大学入試、さらには就職と、人生のステップを進んでいくごとに、
――自分の可能性を信じる。
――自分の未来を夢見る。
こんなに楽しいことを、ずっと忘れていたなんて。
「はは……」
少し涙がにじんでしまう。
おタマちゃんの話だと、俺は探索者として驚くほど急激にレベルアップできているということだ。
現役探索者、しかも幼なじみの話だ。お世辞ではないだろう。
このままのスピードで成長できるのであれば、いつかおタマちゃんと肩を並べて一般のダンジョンを探索できるかもしれない。
そんな期待すらしてしまう。
「あ……」
クワガタではないが、新種の虫を見つけた。
さっそく捕まえてみる。
ボワン!
図鑑No.63/251
名前:縦じまカミキリ
レア度:0
捕獲スキル:斬撃強化(小)
捕獲経験値:80
ドロップアイテム:魔石(小)
「おお!」
直接の攻撃スキルではないが、戦闘向けのスキルだ。
純粋にうれしい。
「……斬撃か」
今はまともに剣を扱うこともできないが、今後の訓練次第では、このスキルが役に立つこともあるだろう。
「……剣、使えるようになるといいな」
……当面の生活費だけを考えるのであれば、このダンジョンだけに潜り、ほかのダンジョンで危険を
戦闘用のスキルなんか不要とすら言える。
しかし、俺は、凡人・無能と否定されてきた過去を乗り越えていきたいと考えている。
かつて憧れた、探索者としての人生を体験してみたい。
その気持ちが止められない。
東京の難関ダンジョンで活躍しているトップエリート層にはまだかなわないけれど。
少しずつ成長して、どのダンジョンでも通用するくらいには強くなりたい。
そう思う。
☆★☆
神社エリアの大木を確認したが、今日は虫が1匹もいなかった。
「……こういう日もあるのか?」
たいてい小クワガタかカナブンが止まっているのに。
めずらしいこともあるものだ。
くるっと一周しても、何もいない。
違う場所に移るか……。
そう思った瞬間、
「ん……?」
視界のはずれに、黒い何かが見えた。
木の
すると。
「いた……!!」
頭上3メートルと言ったところか、大木の上の方に、黒く光るクワガタムシがいた。
形状は横に平たく、これまで図鑑に登録したクワガタとは異なっている。
さて、どうやって獲ろうか。
「……よし」
まずは定番、木を揺らしてクワガタを下に落としてみよう。
足の位置を調整し、右足の裏で思いっきり大木を蹴ってみた。
ばすっ!
「…………」
クワガタは落ちてこない。
木に登ろうにも、とっかかりがなさすぎて難しそうだ。
「……あれを使ってみるか」
俺は右手を広げ、発動を念じる。
「魔生物捕獲ネット!」
すると、なにもない空間からスルスルと虫取りアミが現れた。
ネット部分は紫色に透き通るとともに、魔素の輝きを帯びていた。
「これでいけるか……?」
虫取りアミの
「まだ駄目か……」
背のびをしても届かないだろう。
……負けたくない。
せっかくのチャンスだ。
本物のクワガタではやったことがないけれど、ジャンプをして捕まえられるか試してみよう。
頑張れば、魔生物捕獲ネットで
「……やるか」
まともにジャンプをするのは何年ぶりだろう。
俺は念のために軽く準備運動をした。
足の
「よし」
準備が終わった俺は、腕を天に伸ばし、魔生物捕獲ネットをできるだけクワガタに近づける。
そして、ひざを折り曲げ、思いっきり垂直跳びをした。
――すると、俺は、クワガタがいる位置よりも高く跳ぶことができた。
「は……!?」
驚きのあまりアミを振ることを忘れてしまう。
ずざっ!
地面に着地し、改めてクワガタの位置を見る。
クワガタはさきほどとまったく同じ位置に残っていた。
「…………えー」
確かに、テレビやネット配信で見る一流の探索者は、目にも留まらぬスピードで敵を倒したり、剛力で巨大なモンスターを吹き飛ばしたりしていた。
そのレベルには至ってはいないが、俺も成長できているらしい。
「レベル16か……」
おタマちゃんの驚きの意味が少しずつわかってきた。
俺は再度垂直跳びを行い、今度は素手でクワガタをつかみとった。
ボワン!
図鑑No.55/251
名前:カゲクワガタ
レア度:★
捕獲スキル:???(条件:クワガタ種を3種捕獲)、攻撃+5(初回ボーナス)
捕獲経験値:300
ドロップアイテム:魔石(中)
そして、ピコーン!という電子音とともに、頭の中に声が響く。
『条件――クワガタ3種の捕獲を達成。特技・
そして、空中にメッセージウィンドウが開かれた。
『
「おお……!?」
いわゆるテイマースキルのようなものだろうか。
まごうことなき、戦闘向けの技だ。
……身体能力の向上と、スキルの充実。
俺は一歩ずつ、未来に向けて歩いている。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます