第13話 古巣からの連絡、そしてクロスカウンター②

「夏目光一様 魔石買取見込額69万8千円」と書いてある画像を送信したあと、俺は井矢田に現状を伝えることにした。



光一:会社辞めたあと探索者になったんだ。さっきの写真は昨日と一昨日2日間の収入


光一:まさか、2日間で月収4か月分稼げるとは思わなかったよ笑



 自分で書いていても、信じられないくらいである。


 プライベートダンジョンさまさまだ。


 ピコン!とふたたび通知音が鳴る。



IYADA:さすがに嘘だろ。お前みたいのが探索者としてやれるわけがない


IYADA:うちの会社に適応できないやつだ。何やらせても無能だろ笑



 ……本当にゴミみたいな人間だな。


 こんなやつが評価されていた会社は辞めて正解だったよ。



光一:俺もそう思ってたよ笑


光一:だけど、生まれつきのスキルと環境がうまくハマったみたいでさ、うまくやっていけそうなんだ


光一:驚くようなスピードで成長もできてるみたいだし、年収1千万円くらいは1年目からクリアできるかもな



 ピコン!



IYADA:は? お前にオレの年収の2.5倍の価値があるわけないだろ


IYADA:冗談はほどほどにしろ



「はは……」


 ま、信じてもらえなくてもいいや。


 2日で69万8千円だからな。


 俺だって信じられないくらいだ。


 このまま頑張れば、あっという間にやつの年収くらい抜けるんだしな。



光一:ま、そんなわけで探索者になったからさ、失業保険は受けられなくなっちゃったんだ


光一:総務に離職票は不要って言わなくちゃな。お前が伝えてくれてもいいんだけど、忙しそうだから悪いしな



IYADA:は?? マジで言うぞ???



光一:伝えてくれるのか。ありがとう。



IYADA:マジで探索者になったのか???



光一:だから、ずっとそう言ってるだろ? たぶん、探索者協会からも総務に年金とかの連絡が行くはず


光一:そっちの仕事、辞めて正解だったわ。俺も記念に高級焼き肉でも行こうかな



 少し間が空いて、ピコン!と通知音が鳴った。



IYADA:は? 探索者? ぜんぜん良くねーし


IYADA:命がけで化け物と戦ってカネをもうけてるんだろ? 必死だな笑


IYADA:真似したくねーわ



「あれ……?」


 流れ変わったな……。


 信じてくれたみたいだ。


 ま、用は済んだが、もう少しつきあってやるか。



光一:詳しくは言えないけど、安全なダンジョンに潜ってる。手ぶらTシャツで入っても大丈夫なくらい


光一:「命を削って朝まで働け」とか言われてたそっちの方がつらかったかな。


光一:お前もその歳で健康診断ボロボロなんだろ? 精密検査は受けた方がいいぞ



 ちなみに、前の会社では、健康診断は受けさせてもらえるが、精密検査のために仕事を休むと怒られるというクソ環境だった。


 まあ、それが当然だと思う社員が多いだけなのだが。



IYADA:んなもん必要ねぇよ。仕事ってのはな、命がけなんだゆ


IYADA:その気迫がないからお前はだねなんだよ


IYADA:くやしくったら社長賞でもとってみろゆ



「あれ……?」


 さっきと言ってることが違う上に誤字だらけだ。


 いにしえのインターネット掲示板で、「顔真っ赤だな」と書き込んだ人の気持ちがわかった。


 格下だと思ってた俺に、逆にマウントをとられて悔しいのだろう。


 少し気分が晴れた。


 もういいや。


 もともと話すことなんかないんだ。


 俺は適当に話を切り上げることにした。



光一:もう11時か


光一:俺はこれから昼メシ食べてダンジョン行くから。ちょっと遅いけど業務開始だ


光一:来年も社長賞もらえるように命を削って頑張ってね。3万円、大切につかいなよ


光一:じゃあな



 俺はスマホを机に起き、探索者セットの準備を行う。


 ピコン!



IYADA:おいまて


IYADA:オレのほうがお前より幽囚なんたからな


IYADA:小金が入ったからといって調子にのりなよ


IYADA:社長賞ももらはったことないくせね


IYADA:オレもやってやるゆ見てろ


IYADA:探索者なんかたいすた仕事じゃない


IYADA:ぜんぜんうらやますくねーゆ


IYADA:お前にできるならオレ2もできる


IYADA:オレをなめる名


IYADA:聞いてるのか?わ


IYADA:おい!ー!!!!




 井矢田からLINKがつぎつぎに来たが、返信せずに放置することにした。


「アホらし……」


 まったく、人の新しい門出かどでを応援することくらいできないのか。


 人間として最低だ。


 思えば、前の会社はそんなやつばかりだった。


「……たかだか3万円と表彰状ごときで、引け目を感じることなんかなかったんだな」


 前の仕事を辞めた今ならわかる。


 ひとつの会社の中で優れているやつが、人間として優れているわけではない。


 環境が変われば、優秀の定義も変わる。


「それがわからない井矢田は……きっと無能なんだろうな」


 少し哀れにすら思えてきた。


 考えてみると、俺は、魔石を集めて、この国のエネルギー事情やダンジョン由来の新産業に貢献こうけんしている。


 一方、井矢田はどうだ?


 顧客をだましてカネをもうけて、クレームは他の部署に押しつけている。


 井矢田と俺、どちらが社会のためになっているのだろうか。


「……比べるまでもないか」


 そして、一番大切なのは、今の日々がとても楽しいということだ。


 死んだ魚の目をして、感情を殺して暮らしていたあの頃。


 いまの充実した日々から戻れと言われても、耐えられないだろう。


 収入がどうこうではない。


 生きている実感がするというか、忘れていた大切なものを思い出したというか……。


 うまく言葉にならないけれど、お金に代えられない喜びがある。


「……まあ、いい」


 井矢田と話したことで、俺の純粋な気持ちが汚されたように感じた。


 プライベートダンジョンにいって、上書きしよう。


「今日はどんなことが待ってるんだろうな」


 とりあえず新しい虫でも探そうかな。


 俺はわくわくしながら、靴をはいた。



(そのころ)

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探索初心者質問スレpart258


1:ななしの探索者

探索者になりたい人、探索者になったばかりの人用の質問スレです。

質問時には>>2-5のよくある質問を必ず読んだ上で、テンプレに沿って質問してください。


※※注意※※

ベテラン探索者の皆様は、若かったあの頃を思い出して、優しく回答してあげてください。



367:ななしの探索者

探索者になってすぐに70万稼ぐ方法を教えろ



368:ななしの探索者

>>367

ありません


  終

制作・著作

━━━━━

 ⓃⓉⓀ



369:ななしの探索者

>>367

まずはここに相談しろ


【多重債務の相談窓口】

https://gov-help.••••••••



370:ななしの探索者

>>367

テンプレで相談してください


【年齢】

【性別】

【探索経験】

【ステータス】

【スキル】

【相談したいこと】

 ※ステータスとスキルは個人が特定できないように書いてください



375:ななしの探索者

めんどくせー。役所みたいだな


【年齢】25

【性別】男

【探索経験】なし

【ステータス】攻撃5、ほかも3はある

【スキル】眠り耐性

【相談したいこと】すぐに70万稼ぐ方法を教えろ



376:ななしの探索者

なんだ釣りか



377:ななしの探索者

解散



378:ななしの探索者

>>375

マジレスしてやる

お前の能力値では70万どころか1000円もまともに稼げない

まずは住んでるところの近くでその低ステータスで入れるダンジョンを見つけろ

ちなみに23区内にはないからな



379:ななしの探索者

お前のステータスじゃFXとか仮想通貨やったほうがマシ

高望みは身を滅ぼすぞ



380:ななしの探索者

お前らに聞いたオレが間違いだったゆ

オレをなめるな

ビッグになってやるかる覚えてろ



381:ななしの探索者

>>380

顔真っ赤にするなよ

冷静さは探索者の重要な資質だぞ


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