8/30【金】曇り時々晴れ―22日目―
ボクは今町の中を駆け回っている。
3日前にタネを無くしたとき、ボクは眠っちゃったのにお母さんはボクは外に出かけたと言った。
たぶんだけど、タネの力のせいなんじゃないかと思う。
というかそれしか考えられない。
正直
事情を聞きたいし、なんか嫌な予感がしたから、ボクは水谷さんの家に直接行くことにした。
でも水谷さんの家に行ったことがないから、家を知っているクラスメイトがいないか町中を探し回った。
昨日一昨日と、クラスの子たちを見かけては聞いてみたけどダメだった。
ダメ元でこの3日間散々行った近所の公園に行った。
するとそこには水谷さんをいつもからかう女子3人組がいた。
「ごめんちょっといい?」
「あら
ボクが話しかけると、3人の中のリーダー格・
「実は水谷さんの家探してるんだけど、知らないかな?」
「水谷?なんであいつの家知りたいの?」
「なんかわかんないけど、ボクのランドセルの中に水谷さんの宿題が入ってて、もうすぐ休み終わっちゃうから早いところ届けたいなと思ってさ」
ちょっと苦しい作り話だけど、苗木さんは特に怪しまずそもそも興味がなさそうだった。
「……ふ〜ん、そうなんだ。まあ一応知ってるけど」
「え⁉ほんと?」
「まあね。あいつどんな家住んでるんだろと思って、私たちで放課後跡をつけたのよ。そしたらあいつすっごいボロボロのアパートに入っていったわ。思ったとおりの貧乏人で笑っちゃった」
そう話しながら苗木さんはクスクスと可笑しそうに笑った。
くだらないことしてるなぁと内心呆れたけど、表情に出さないよう平静を装った。
「へぇそうなんだ。場所はどこ?」
「近くの川のとこに
「教えてくれてありがとう。それじゃあね」
簡単にお礼を言ってボクは公園をあとにした。
〜10分後
ちょっと迷ったけど、ボクは無事目的地に到着した。
アパートの壁には『ハナグモ荘』と書かれた木製のプレートがつけられている。
……うん間違いないここだ。
アパートの扉の部屋番号を確認しながら105号室を探すと、1階の1番右端にたどり着く。
ボクはドア横のインターホンを恐る恐る押した。
ピンポーーンと軽快な呼出音が外に漏れた。
ドキドキしながらドア横で待っていたが、1分過ぎても出てこない。
再びインターホンを押した……でもやっぱり誰も出てこなかった。
今度はドアをノックしようと思ったら、ドアがかすかに開いていることに気づく。
ボクはドアノブを掴み、ドアをそ〜っと静かに開く。
中は暗く、外の光が部屋に差し込み中の様子が見えてきた。
ドアを開けたとき、ボクの目に水谷さんの倒れている姿が飛び込んでくる。
「水谷さん⁉」
玄関でうつ伏せになって倒れている水谷さんに駆け寄る。
「大丈夫⁉しっかり!!」
「……ん、んぅ、若木……くん?」
ボクが呼びかけると、水谷さんがうっすらと意識を取り戻す。
「なにがあったの?」
「お母……さんが……早く、助け……ないと」
苦しそうに首を動かし、部屋の奥に視線を移した。
「お母さんがどうしたの?」
「わかんない……でもこのままだと……危ない……」
「ちょっと待ってて」
ボクは床に水谷さんを寝かし、奥の部屋へと向かう。
扉を開くとそこは畳の和室だった。
カーテンが閉められ部屋はうす暗かった。
中を確認するためカーテンを開き、光を部屋に取り込む。
すると部屋の隅っこになにかがいるのを感じた。
そのなにかがいるほうを見ると、体中に花を咲かせた人の姿があった。
「なんだ……これ?」
その花の形には見覚えがあった。
……願いを叶えるタネから生まれた花だ。
だけど花の色は見たことがなかった。
でも説明書には書いていた。
決して咲かせてはいけない黒色の花だ――
* * *
昨日は気絶してから目を覚ますと、部屋には誰もいなかった。
今日の昼になっても、夜になってもお母さんは結局帰ってこなかった。
不安を抱えたままでその日は終わった。
* * *
お母さんがいなくなって1日以上たった。
自分にとって1番最悪なことが頭をよぎる。
私はお母さんに捨てられたんじゃ……
手から汗が吹き出し、体が震えてくる。
警察に行くかどうか考えたり、ご飯を食べたりして私はお母さんを待ち続けた。
深夜になり、そろそろ寝ようとしたそのとき、玄関のドアが開く音がした。
「た〜だいまぁ〜」
気の抜けたような声が部屋中に響いた。
私はお母さんの姿に安心すると同時に、怒りがフツフツと沸いてきた。
「今までどこ行ってたの!!」
「そんな怒んないでよ〜、ちょっとこれを手に入れたお祝いに飲みに行ってただけよ〜」
ポケットに手をつっこみ、お母さんはタネを取り出し私に見せつけてきた。
「えっ⁉どうしたのそれ⁉」
「タネにお願いして若木くんにもらったのよ」
「若木くんに何したのよ!」
「アタシはなにもしてないわよ。若木くんにタネをもらいたいってお願いして花を咲かせたら、若木くんがアタシのとこに来てタネをくれたのよ。まあでもタネが2つしかないのは残念だったけどねぇ」
「無理矢理奪ったようなものじゃない!返してあげて!」
「もうアタシのもんだも〜ん」
子供のような屁理屈を並べるお母さんに私のイライラはピークに達しそうだった。
「ふぁ〜……眠くなっちゃった。アタシ寝るねぇ」
私のことなんか一切気にせずお母さんは寝室の和室に行こうとする。
寝室のドアを開け中に入るお母さんに続いて私も中へ入った。
そして私は後ろから、お母さんが右手に持っていたタネを奪い取る。
「ちょっとなにしてんのよ⁉」
振り向いて後ろにいた私からタネを取り戻そうと、お母さんがタックルするように体を向けてきた。
だけど私は躱して、再びお母さんの後ろにまわる。
躱されたお母さんは勢いあまってバランスを崩して、壁におもいっきり頭をぶつけた。
この隙に私は畳の目にタネを挿し込み隠した。
お母さんがよろめきながら立ち上がり、私のほうへクルッと体を向けた。
お母さんの額からは血が流れて、畳にポタポタと雫が垂れていた。
「返しなさいよっ!!」
鬼のようなお母さんの形相に私の体は震え、足がつまづき尻もちをついてしまう。
血を垂らしながらゆっくりと私に近づくお母さん。
「アタシはねぇ、幸せになるの!誰もが羨む人生を手に入れるのよぉ!バカにしてきた全員見返してやるぅぅぅぅぅ」
吠えるような声が部屋中に響く。
私まであと少しのところで、お母さんの血が畳の目に刺さっていたタネに降りかかった。
すると―
畳から植物のツルが伸び、あっという間にお母さんに絡みついた。
「っ⁉な、なに⁉ちょっと咲助けてよ!!」
とんでもない光景に呆然としていた私は、ハッと意識を戻し、お母さんに駆け寄った。
手でツルをちぎろうとしたけどビクともしない。
そうこうしているうちにツルの先端がお母さんの口に入り込んでいく。
「ガ、ガ、ガ……」
苦しそうなお母さんは体をジタバタと動かし抵抗を試みた。
ツルの間から右手が出るが、すぐ近くにいた私の頭に思いっきりぶつかった。
意識を朦朧としながら床に倒れ込む。
もう私じゃどうにもできない……
外に助けを求めようと床を這いずりながら玄関へと向かう。
到着した私は上半身を起こし、ドアノブに手をかける。
だが手をツルッと滑らした私は、そのまま玄関で意識を失った。
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