8/28【水】雨―20日目―
今日もこの川に来ている。
来たくて来ているわけじゃない。
逃げた場所がたまたまここだっただけだ。
私はお母さんと2人で暮らしている。
住んでるとこは古いアパートで、お世辞にもキレイとは言えないところだ。
お母さんは普段お昼に働いてるけど、最近は夜にどこかでかけている。
朝に帰ってきてお酒臭い体で私に抱きついてくる。
登校前だったからシャワーも浴びれず、変な匂いがついたまま学校行ったらクラスの子たちにからかわれた。
隣にいる若木くんはなにも言わず接してくれた。
若木くんは私がクラスメイトに教科書や文房具を隠されたりしたときも、貸してくれたりする。
その優しさは嬉しいけど、同時に申し訳なさも感じている。
夏休みに入ってからはずっと家にいたけど、お母さんがたまに知らない男の人を連れてくるようになった。
お母さんは男の人とベタベタして、なんか居づらくなって私はほぼ毎日外に出るようになった。
最初は図書館にいたんだけどクラスの子たちを見かけて、会いたくないから別の場所に行くことにした。
他にもデパートとか公園にも行ったけど、どこかしらに学校の子たちを見かけた。
私に友達がいたら一緒に遊べるけど、あいにくゼロ人だ。
身につけるものはボロボロだし、変な匂いしてるし、みんな私を遠ざける。
そんな私は、こんな人が来ないような川で1人遊ぶのがお似合いだ。
そう言い聞かせて、川に小石を投げつける。
自然と力がこもり、ボシャンボシャンと大きな音とともに水しぶきがあがる。
そのときだった―
「水谷さん、こんにちわ」
唐突に後ろから声が聞こえた。
石投げに夢中だった私は、ビックリして体が固まってしまう。
恐る恐る振り返ると、そこには見知った顔があった。
「若木くん?」
隣の席の
まさかの出会いに驚いたけど、それ以上に嬉しかった。
私は手に持っていた小石を川辺に戻し、若木くんと少しだけお話した。
話題がつきたとき、若木くんが心配そうな顔でなにかあった?って聞いてきた。
私は反射的に大丈夫と答えた。
正直心の中を打ち明けたかった。
でも言ったら引かれるんじゃないかとか、もう話しかけてくれないじゃないかって怖かった。
なによりお母さんが変な人って言われたらどうしようって考えてしまった。
悩みを感づかれないように強がっていると、若木くんはポケットからナニかを取り出した。
それはタネだった。
若木くんが言うには花を咲かせると願いが叶うらしい。
突然突拍子もないことを言うものだから、私はポカンとしてしまった。
冗談でからかってるのだろうか?
でも若木くんの顔は真剣だし、そんなジョークを言う人じゃない。
若木くんは、花を咲かせていろんなお願いを叶えたこと、タネの育て方や注意事項を教えてくれた。
思わずなんでここまでしてくれるのかストレートに聞いてみた。
若木くんは、そうしたかったからって真っ直ぐな目で語った。
正直話は信じられないけど、若木くん自身は信用できる。
私のことを心配してくれてることは伝わったので、素直に好意を受け取ることにした。
私は若木くんの手のひらにある2粒のタネを手にした。
そして別れを告げ、私は若木くんの元を去った。
この日の帰り道はちょっとだけ足が軽く感じた。
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