第18話 窃盗事件

 村長では頼りないと、兵士が村人へと尋ねる。


「えーと。一体どうされたんですか?」

「え? あぁ、窃盗ですよ。置いておいた野菜が無くなっていたんです。」

「取られた?」


 それを聞いて眉をひそめる兵士。

 どうやら、野菜が盗まれた事件が発生したようだ。

 それを聞いたイリアは、とある事を思い出す。


「そういえば、ここに来るまでに聞いたなぁ。また盗まれたって。」

「また? という事は、何度も起きてるのですか? 聞いていませんが。」

「まぁ小さい獣の仕業だろうって、兵士さんに知らせる程では無いと判断したんですよ。」


 鼠程度なら、村人でも払える相手だ。

 わざわざ兵士に頼む程ではない。

 しかし、こうして何度も起きている。


「でも、止められてはいないようですが。」

「それが…そうなんですよね。なにせ、犯人の姿すら見た事がないので。」

「見た事が無い? 何度も盗まれてるのに?」

「はい。情けない事に。」


 事件は一度だけではない。

 それなのに、獣一匹すら見つかっていないと言うのだ。

 それを聞いたイリアが手を挙げる。

 

「不審者とか見てないの? 盗賊とか。」

「勿論疑いました。でも、必ず目につくような場所なので、いたら分かります。そうですよね?」

「はい。歩けば誰かと会うような場所なので。」


 村人の言葉に、村長の孫も同意する。

 この村は、大きいと言える程の広さはない。

 そうなると、必ず誰かが目撃をしてしまうだろう。

 それを聞いた兵士が悩みだす。


「そうなると、魔物や獣も違いますね。どんなに知能がある種族でも、見つからずに運ぶのは不可能ですから。勿論、村人が犯人もありえません。」

「持って担ぐと目立ちますからね。」


 誰かが盗んだ所で、見つかるのは避けられない。

 そもそも、見つからずに村へ入る事も不可能だ。

 犯人が村人の場合も、野菜を持っていれば怪しまれるだろう。

 それならばと、生徒の一人が笑いながら手を挙げる。


「つまり、地上から盗んだんじゃないんでしょ? じゃあさじゃあさ、土の下から近づいて盗んだとか? こう、グワーッて。」

「無いですね。野菜を運べるだけの大きさがあるなら、土にも大きな跡が残るでしょうから。」


 大きいものが通れば、必ず土が浮き上がる。

 そうなると、嫌でも犯人が分かる筈だ。

 すると、他の生徒もまた手を挙げる。


「なら鳥とか。上から来たなら見つかる事は無いでしょ?」

「えぇ。我々もそうは考えたんですが、この辺りには野菜を運べるだけの鳥はいません。」

「そうですね。毎月見てますが、我々兵士も大きな鳥の存在は確認していません。」


 野菜を運ぶには、ある程度の大きさも必要だ。

 小さい鳥では、持ち上げる事すら出来ないだろう。

 つまり、鳥による犯行でもない。


「上でも下でもない? じゃあ、一体どこからなのさ。」

「それが分からないから困っているんですよ。幸いにも、人を襲う訳では無いので放っておくしかないと諦めかけ始めてるんですよ。」


 見つけられない事には、捕まえる事は出来ない。

 だから、諦めるしか方法は無いのだ。

 それを聞いた生徒の一人が、レリーアの肩へともたれかかる。


「ねぇレリーア。犯人の事、なにか分かんない?」

「そんなに知りたいのでしたら、本人に聞けば良いのですわ。」

「本人に聞く?」

「えぇ。つまり、盗む際に捕まえれば良いんですわ。」


 どんなに見えなくても、盗む際にはあらわれるだろう。

 しかし、そんな簡単な事を村人が思いつかない訳がない。


「それなら試したさ。でも、人が見ない時を狙ってくるし罠だって効かなかった。」

「違いますわ。」

「え?」

「捕まえるのは、人ではなく野菜自身…ですわ。」 


 人で捕まえられないなら、野菜自身に捕まえさせれば良い。

 それを聞いた一同の思考が止まる。


「え…。」

「「「えええええっ!?」」」


 そんな驚きの声が聞こえる中、村長が大きく首を揺らす。

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