第13話 心と心のぶつかり合い

 二つの拳が交差し、お互いの顔を殴る。

 そうして両者が仰け反るも、すぐに体勢を戻す。


「こっから先が本番だYO! お前の本気を見せてみろYO!」


 ドッコイが殴る。


「言われなくとも真摯に真剣! 本気を見せるが恩返し!」


 ウォーコングもまた殴る。

 そして、再びの殴り合い。

 すると、周りの魔猿が集まってくる。


「負けられねぇ。」


ウキー!


「負けたくねぇ。」


ウキー!


「そんな、思いの丈を思いっきり!」


ウキー!


 魔猿がリズムにノッテくる。

 それにより、ウォーコングの拳の威力が上がる。

 その力にドッコイが押されていく。


「良い拳だYO! それでも俺も負けねぇYO!」


 そう言いながらも、ドッコイは押されている。

 魔猿との相乗効果は思った以上だ。

 それを見たイリアが不安まじりに怒る。


「あんなの卑怯だよ。こっちは一人なのに。」

「そうね。まさか、周りの声も反映出来るなんて。」

「周りの? それならこっちも出来るんじゃっ。」

「ちょっ、イリアさん!」


 ある事に気づいたイリアが駆け出す。

 そのまま、争うドッコイの近くへと駆け寄る。


「ドッコイさん! 向こうが数ならこっちも数だYO!」

「イリア君! よし。皆の力を合わせてぶつけるYO!」


 二人のリズムを合わせて力を増やす。

 それでも、まだまだ力は足りないようだ。

 ならばと、イリアが勢いを増す。


「そのままどんどん押しちゃえYO! さぁ、レリーアちゃんもご一緒に!」

「え? ええっ!? えと、頑張って下さいYO?」

「良いじゃん。そのまま絶やさず、リズムを刻もう! あ、今の良くなかった?」

「速攻で途絶えたんですが!?」


 突っ込みつつも、レリーアもまた前に出る。

 そんな二人のリズムを受けながら、ドッコイが殴りかかる。


「これが俺達のリズムだYO! 悪いとは言わせねぇYO!」


 そうして殴られたウォーコングもまた殴り返す。


「なかなか良いじゃん。ノリノリじゃん? 必要なのなは楽しむ心!」


ウキー!


 リズムに乗りながらも、交互に殴っていく。

 その度にボロボロになるも、楽しそうに殴り合う。

 それに合わせて周りも盛り上がる。


「そんならもっと、楽しくいくYO! こっちも負けてはいられねぇ。」

「YO!」「「「YO!」」」


 リズムに乗るイリアとレリーア。

 それだけはなく、生徒会のメンバーも乗ってくる。

 それを見て驚くレリーアへと会長がウインクをする。

 それだけでなく、町の住民も集まってくる。


「なんだなんだ? なんか楽しそうな声が聞こえてくるぞ?」

「本当だ。そう言えば、いたずらする魔物達ももういないけど。」

「こっちだ! こっちで何かしているぞ! 魔物達もここだ!」


 楽しそうな声に、次々と集まってくる。

 そして、リズムに乗りながら殴り合う一人と一匹を見る。

 その光景にイリアが気づく。


「なんか人が集まって来たYO。」

「ほっとけこっちは大事な交流。そんなもんじゃ止められねぇ。」

「YO!」「「「YO!」」」

「むしろこいつら大事な観客。どうせ来たなら一緒に一興!」


ウキー!


 どれだけ人が増えようが、雑音が増えようが関係ない。

 リズムの世界にいる一人と一匹を止められる者などいないのだ。

 そんな二人は、注目が集まる中で殴り合う。


「ここから正念っ、俺はぜってぇ負けねぇ。」

「YO!」「「「YO!」」」

 

 ドッコイが殴る。


「それはこっちの台詞だ。」

「YO!」


ウキー!


 ウォーコングが殴る。

 そんな楽しそうな光景を見て、住民が楽しそうに笑う。

 それでもまだ二人は殴り合う。


「いやいや勝つのはこっちだ。」

「YO!」「「「「「YO!」」」」」


 ドッコイが殴る。

 そして、遂に住民もノッテくる。


「それでも勝つのはこっちだ。」

「YO!」「「「「「YO!」」」」」


 ウォーコングが殴る。

 もはや、言葉は単純な言い合いになっていく。

 そこにおしゃれさはない。

 それでも、周りは楽しそうにノッテくる。

 それにより、ここ一帯が一つになる。


(これだ。俺が求めていたのはこの光景だ。この心がぶつかり合い一つになるこの感じ。本当に、感謝だぜ。この光景を見せてくれてありがとな。でも、だからこそっ。)


 ウォーコングが大きく身を引いて拳を握る。

 そして、全ての心を拳に込める。


「見てろよ最後のかっこつけ。ありったけを込めてやる。」

「YO!」「「「「「YO!」」」」」


ウキー!


「ならばこっちも込めるまでYO。お前の挑戦受けてたつ。」

「YO!」「「「「「YO!」」」」」


 ドッコイもまた、拳に心を込める。

 ここで受けないという選択肢など無い。

 そうして両者は同時に前へ出る。


「「勝つのは俺だ。俺の全てを受けて見ろっ。」」

「「YO!」」「「「「「YO!」」」」」


ウキーーー!


 両者の拳はすれ違い、相手へと向かう。

 次の瞬間、ウォーコングの体が吹き飛ぶ。

 その場に立つのはドッコイだけ。


「あんたの心、確かに受けた。今のあんたは誰よりも格好良い。YO。」


 そんなドッコイは、突き出した拳の親指を上げる。

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