第12話 上っ面だけのリズム

 起き上がったウォーコングは、口元の血を拭いながら立ち上がる。


「知りたい? そんなの必要ない。ただの偶然、調子に乗んな!」

「偶然? ほんとにそう思う? それなら、も一度食らっとけYO!」


 そう言いながら、再びウォーコングを殴りつける。

 しかし、今度は後ろ足で耐えられる。

 それでも、殴られた箇所が腫れている。


「ちいっ。マジでほんとに食らってる。一体全体、理解の不明っ。」

「ここまでやって分かんねぇ? あんた自身の力の筈だYO!」

「おいらの力? あり得ねぇ。こいつは俺の唯一無二のっ…。」


 そう言いかけた所で、ドッコイを纏う結界に気づく。

 自身が纏うのと同じ結界に。

 その様子を見たドッコイが指をさす。


「あんたの結界はリズムによる振動だYO。そいつで力を消していたんだYO。しかし、揺れもまた消えてしまう。同じ揺れがぶつかるとYO!」


 結界の正体は、リズムで作り出した振動だ。

 その振動は、ぶつかるものの威力を減らす。

 しかしそれは、振動自身もまた同じ事だ。


「だから、俺の結界真似したか。だからと再現、不可能だろう!」

「そんなの見れば分かんだろYO! それともまだ殴られたいのかYO!」


 そう言いながら、更にウォーコングを殴りつける。

 それでも、ウォーコングは踏ん張って耐える。


「それでも、揺らすにゃリズムが必要! そんなリズムで揺れるかYO!」


 そう言いながら、ウォーコングがドッコイを殴る。

 それでも、ドッコイは踏ん張って耐える。

 

「あんたはまだ分かんねぇのかYO! ほんとに大事なものがYO!」


 そうしてまたドッコイが殴る。


「そんなの言われる必要ねぇ。こっちは前から、リズムを理解!」


 そうしてまたウォーコングが殴り返す。

 そうしたらまたドッコイが殴り返す。

 そんなリズムに乗った殴り合いが始まる。

 その様子を、イリア達が心配そうに見つめる。


「あぁ、ドッコイさんが、ドッコイがっ。」

「私達も、振動による結界を作れたら良いんですが…。」

「そんなの無理だよっ。生徒会の皆さんはどうです?」

「無理ね。仕組みすら分からないわ。」

「生徒会の皆さんですらも!?」


 ここにいる優等生が集まって出来ないものだ。

 もはや、この状況をどうにか出来るのはドッコイだけだ。

 そうしている間にも、ウォーコングが殴り飛ばされる。


「いてぇ。どうなってんだよ。確かに俺の結界が相殺されてやがる。何でこんなくそみたいなリズムにっ。……くそ? どうして俺はそんなに汚い言葉を?」

「ようやく気づいたか。そうだ。お前は元々、相手を罵る為に始めた訳ではない筈だ。」


 それは、かつてウォーコングがリズムを取り始めた時の話だ。

 元々は、違う目的で始めていた筈だ。

 その時の事を思い出す。


「そうだな。俺は誰かと一緒に心を通わせる為に始めたんだ。それがいつしか、上っ面だけを気にするようになっちまった。ダサすぎるぜ。」

「あぁ、ダサいな。最高にダサすぎる。」


 上っ面を気にするせいで、それ以外を見下すようになってしまったのだ。

 そんなので、どうやって心を通わせるというのだろうか。

 思い悩むウォーコングを見て、イリア達がドッコイへと叫ぶ。


「ドッコイさん! 今だよ!」

「倒すなら、今しか無いですわ!」


 相手はもうリズムを取っていない。

 それどころか、戦う気力もない。

 叩くなら今しか無いだろう。

 しかし、ドッコイは首を横に振る。


「ふははっ。そんなダセェ事をする気はないさ。」

「え? でも、また暴れ始めたら…。」

「その時は、私が止める。任せてくれ。」


 戦う気の無い相手をぶん殴る。

 そんなのはダサいにも程がある。

 それを聞いたイリアが頷く。


「……分かりました。」

「良いんですの?」

「うん。私はドッコイさんを信じるよ。」


 それでも、ドッコイならどうにかしてくれる。

 そう信じ託す事にしたのだ。

 そうしている間にも、ウォーコングの体が震えだす。


「俺がしたかったのはこんなのじゃねぇ。心を通わせて一緒に盛り上がるような最高のリズム。そして、それをぶつける事によってお互いを分かり合う最高の舞台だろうが。」


 思い出した事によって、あの時の光景が思い浮かぶ。

 それにより、ウォーコングの心が突き動かされる。

 それを押さえながらも、人差し指を立てた手を上げる。


「昔の思いを呼び出した、そんなお前をリスペクト。それでも俺は続けてぇ。もっぺん一から始めてぇ。悪いが手加減する気はねぇ。」

「手加減? そんなの求めてねぇYO。黙って、とっととかかって来いYO!」

「黙る? そんなの出来っこねぇ。あんたに見せるぜ、俺の全力かっこつけ! YEAR!」


 今度こそ、心を込めたリズムを取る。

 そうして、お互いが何度目かの拳を振るう。

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