第9話 ヒップでホップな親玉TOJO!

 当然現れたそいつは、魔猿を大きくしたようなコングの姿をしている。

 こいつが魔猿達の親玉で間違いないだろう。


「YO。おいらは猿王、ここの親玉、その名はウォーコング、ここにTOJO!」


 ウォーコングと名乗るそいつは、独特な手の形をこちらに向ける。

 それを見た一同は、口を開けて固まる。

 そんな一同を無視してウォーコングが続ける。


「お前ら人間、ここは猿の楽園、用の無いやつぁ出ていきな。イェア。」


 何か言われているようだが、やはり一同は動けない。

 あまりの聞きなれない話し方に思考が止まったようだ。

 それでも、カレンがわずかに残った思考を搾り出す。


「えーと、ウォーコングだっけ? 元々ここは人の住む場所なんだけど。」

「残念、ここは既に俺らの住処。だから既にお前らは部外者。」


 つまり、乗っ取ったという事だろう。

 だから、もう関係ない人間を追い出したいようだ。


「部外者はあんた達でしょ。そっちこそ出ていきなさい。」

「そいつは無理さ、ここは俺達のものさ。取られた奴が悪いのさ。YEAR!」


 カレンへとポーズを決めるウォーコング。

 そんなウォーコングの言葉に魔猿達が拍手する。

 それを聞いたカレンが口の端をひくつかせる。


「どうやら話し合いは意味がないようね。」

「じゃあどうする? 何する? くそダセェ猿もどきの分際で。」

「く、くそダサい猿もどきーぃ!? 良いわ、ならやってやろうじゃないっ!」


 どうやら格下相手に見られた事で限界が来たようだ。

 ウォーコングに向けて、カレンが手を構える。


「馬鹿にした事を後悔なさい。火風っ!」


 その言葉と共に、手から放たれた火がウォーコングを襲う。

 更に風のように動くと、ウォーコングを包んで焼いてしまう。

 それを見たイリアが喜ぶ。


「中級魔法! うぉー、流石上級生だね! 威力も凄い!」

「当然よ。私程になると、森を丸ごと焼く程の威力を出せるもの。」

「森!? 何か分かんないけど凄い!」


 カレンの言葉通り、火の威力は凄まじい。

 魔力の質も上がると、威力も上がるのだろう。

 しかし、その炎の中でウォーコングが笑う。


「はんっ、随分と芸達者だな。あちーじゃねぇか、この野郎!」


 直後、火が消えると指を天に指すウォーコングが現れる。

 どうやら、全く効いていないようだ。


「なんですって!?」

「何でも何も、こんな火じゃ俺のハートは燃えねぇぜ。ショボすぎるぜ。イェア!」

「くっ、火の魔法は効かないって事?」


 火の魔法に耐性があるのだろうか。

 ならば、攻撃が効いてないのも頷ける。

 すると、副会長のクーリスがカレンの横に並ぶ。


「なら、ありったけの魔法をぶつければ良いだけだよね?」

「クーリス。」


 カレンだけでは無理だと協力に出たようだ。

 すると、他の生徒会のメンバーも横に並ぶ。


「会長、さっささと追い出してしまいましょう。」

「私達が力を合わせれば余裕ですよ。」

「サーシャ、ユタカも。そうね。私達、生徒会の力を合わせる時ね!」


 仲間を見たカレンが笑う。

 どうやら、自信を取り戻したようだ。

 それを見たウォーコングもまた笑う。


「良いじゃねぇか、乗ってきたじゃねぇか。嫌いじゃねぇぜ、この展開っ。さぁ、かかってきな。」

「言われなくても!」


 こちらは既に、やる気は充分だ。

 生徒会のメンバーが一斉に手を構える。


「でも、ポーズを馬鹿にした事覚えてるからねっ! 風火っ!」

「根に持ってる!?」


 僅かな怒りと共に魔法を放つカレン。

 今度は、火を纏った風の刃がウォーコングを襲う。


「水風!」


 次に、渦巻く水の柱をクーリスが放つ。


「氷水!」


 次に、複数の氷の針をサーシャが降らせる。


「土金!」


 次に、地面から鉄の針をユタカが浮かばせる。


「くらいなさい!」

「「「「私達の全力を!」」」」


 同時に放った魔法がウォーコングを襲う。

 すると、直撃すると同時に激しい爆発が起こる。


「やった!」


 一つ一つが大きな魔法だ。

 普通の魔物なら木っ端微塵だろう。

 しかし、普通の相手ならばだ。


「なんだ、この程度かこの野郎。期待して損したぜ、呆れたぜ。」

「なっ。これでも駄目だと言うの!?」


 普通の魔物なら砕く程の魔法だ。

 それを受けたにも関わらず傷一つない。


「所詮は猿もどき。羽虫にぶつかったかと思ったぜ、攻撃と思わなかったぜ、残念だ。期待した俺が馬鹿だった。」

「くっ、言ってくれるわね。」


 期待しただけに、威力の弱さに呆れているようだ。

 あれだけ受けたのに、無傷だったのだから仕方ない。

 すると、それを見ていたイリアが手を構える。


「レリーアちゃん、こうなったら私達が。生徒会の皆さんの敵を打つよ。」

「死んでませんわよ。それに無駄よ、止めなさい。」

「で、でも、私はともかくレリーアちゃんなら!」


 レリーアは、生徒会に誘われるだけの実力の持ち主だ。

 そんなレリーアだが、動こうとはしない。


「駄目ね。当たる直前、魔法が弱まってたわ。これ以上攻撃しても無駄撃ちね。」

「弱まってた? 結界みたいなもの?」

「さぁね。でも、近しい何かには間違いないわ。」


 攻撃が効かなかったのは、結界か何かで守っていたからだ。

 こうなると、魔法でいくら攻撃しても無駄だろう。


「そんじゃあ終わりか? 諦めちゃうか? ならこれで、お前ら終了だ。ほら、お前達、こいつらを追い出しちゃいな。」


 ウォーコングの指示で、魔猿達が動き出す。

 そして、巣を荒らす人を追い出そうと囲い込む。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る