第5話 なんだかんだの解決 そして、お別れ

 火の着いた爆弾を、ウルフマンがお手玉する。


「おいおいおいっ。どうすんだ!」

「知るかっ。お前のなんだからお前がどうにかしろ! その間に俺達は逃げる!」

「間に合わねぇよ! その間にドカンでぺしゃんこだぞっ?」

「ぐ、ぐうっ。」


 ここは山に出来た洞窟の奥だ。

 ここで爆発しようものなら、天井が崩れて埋もれてしまう。

 すると、レリーアが手を前に構える。


「火なら消してしまえば良いでしょ。水よ!」

「おおっ。流石だ、嬢ちゃん!」


 レリーアの水の魔法が爆弾へと降りかかる。

 しかし、爆弾の火は消える様子がない。


「何ですって?」

「ははあっ。こいつは湿気ない素材で出来てんだよ! そんな水鉄砲で消えるかよ!」


 湿気なければ、爆弾の火は消えない。

 その事を自慢するウルフマンだが、その横顔にドッコイの拳が刺さる。


「威張ってる場合かーーっ!」

「すんませーーんっ!」


 殴られ吹っ飛ぶウルフマン。

 その際、手から爆弾が落ちる。

 その爆弾の紐は、少しずつ短くなっていく。


「速度は遅くなりましたけど、消すのは不可能ですね。」

「レリーアちゃんっ、土の魔法をかけるのは?」

「駄目ね。あの火種をどうにかしないと消えないわ。」


 土を被せた所で、火が消える訳ではない。

 結局、火種をどうにかしないといけないのだ。

 そうしている間にも、紐は短くなっていく。


「どうしましょう! ドッコイさんっ!」

「どうするんです! 貴方っ!」

「どうするんだ! ドッコイっ!」


ワウ! ワウーーーーン!


「なんか交ざった!?」


 どうにかする方法は見つからない。

 そんな中、一同の視線がドッコイに向く。

 それに答えようと悩むが時間はない。


「ええい! ままよ!」


 悩んだ末に駆け出すドッコイ。

 そして食料の入った箱を掴んで放りなげる。

 すると、箱の中の食料が辺りに散らばる。


「ドッコイさん!?」

「二人は食料に火を放ちながら後退! 急げ!」

「は、はいっ!」

「仕方ありません。火よっ。」

「ひ、火よっ!」


 二人が魔法で火を放っていく。

 それらの火は、辺りに散らばる食料へとついていく。

 そして、ドッコイもまた松明を掴んで火を着けていく。

 それを見たウルフマンが叫ぶ。


「俺達の食料がーーーっ!」

「言ってる場合かっ! 死にたくないならお前達も逃げろ!」

「しかし、部下を見捨てるなんて…って、皆もう逃げてるぅーっ! おい! 俺を置いてくなっ!」


 気づけば、部下のウルフは既に退避済みだ。

 それを追うように、ウルフマンもまた退避する。

 そうして、奥の部屋にいた者達が入り口へと逃げ込む。


「皆いるな! よし! こいつでっ!」


 皆の避難を確認したドッコイが、天井に松明を叩きつける。

 すると、その勢いで天井が崩落し入り口を塞ぐ。


「なりほど、密封したんだね。」

「爆発が止められないなら、爆発自体をどうにかすれば良い。」

「でも気休めですわ!」

「無いよりましさ。さぁ、逃げるぞ!」


 この程度の密封では、爆発への影響は殆ど無い。

 しかし、僅かな可能性を信じて逃げ始める。


「くそう。よくもまぁこんな深くに作ってくれたもんだっ!」

「身を隠す為なんだから仕方ないだろう!」

「喋ってないで足を動かしなさい!」

「「はいぃっ!」」


 文句を言いつつも逃げ続ける。

 今はただそうするしかないのだ。

 すると、出口が見えてくる。


「出口だ!」


 出口に向かって走り続ける一同。

 しかし、その直前に爆弾が爆発してしまう。


「ぐっ、飛び込めぇっ!」


 このままでは間に合わない。

 ならば、いっその事でと飛び込むように出口へと跳ぶ。


「「「「わああああああああああっ!」」」」


ワオーーーーン!


 前へと浮いた体は、奥からの爆発に押されて勢いを増す。

 そして、そのまま爆発と共に外へと投げ出される。

 そうして投げ出された一同は、地面へと滑るように落っこちる。


「た、助かったの?」

「みたいだな。」


 起き上がって無事を確かめる。

 間違いなくここは洞窟の外だ。


「や、やったーーーっ!」

「良かった! 何とかなるもんだな!」

「えぇ。認めざるをえませんわ。」

「俺達にかかればこんなもんだな。はっはー!」


 思い思いに、脱出の喜びを分かち合う。

 しかし、一緒に交ざるウルフマンをドッコイが殴り飛ばす。


「って、全てお前のせいだろーーーっ!」

「もうしませーーーーーん!」


 ウルフマンの情けない叫びが辺りに響く。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「無事に兵士に引き渡せたわね。」

「うん。ドッコイさんも付き合ってくれてありがとうね。」

「ふふっ。騎士として当然の事をしたまでさ。」


 連行されていくウルフマンを見送る三人。

 部下のウルフ達はいつの間にか消えていた。

 どこからか、薄情ものーとの叫び声が聞こえてくる。


「これで一件落着ですね。」

「えぇ。部下を取り逃がしたのは気になりますが、私達の仕事では無いですから。」

「そうだな。俺達に出来る事はもう無いだろう。」


 何はともあれ、黒幕は捕まったのだ。

 これ以上、三人に出来る事は無いだろう。

 すると、イリアとレリーアはドッコイを見る。


「じゃあ、これでお別れだね。ドッコイさんは、これからどうするの?」

「そうだな。折角こっちの世界に来れたんだ。しばらく見て周るとするよ。」


 こっちの世界に興味があるのだろう。

 果てなく続く地平線をドッコイは見る。


「その姿で大丈夫なのですか?」

「あぁ、何とかするさ。それよりも、これを。」

「え?」


 イリアへと何かを送るドッコイ。

 それは、紋章が刻まれた指輪だ。

 それを見たレリーアが驚く。


「なっ、それがどういう事か知ってるんですの!?」


「知ってるさ。自由に呼んで良いという許可だろう? また、禁術で呼ばれる訳にはいかないからな。お互いの為だろう?」

「それはまぁそうですが……。」


 物を送るという事は、繋がりが出来るという事だ。

 その繋がりがあれば、自由に相手を指定して呼べるのだ。

 その指輪を、イリアが大事そうに包む。


「それって、また呼んで良いって事ですか?」

「勿論だ。何かあればな。その時はまた力になろう。」


 親指を立てるドッコイ。

 そして、二人へと背を向ける。


「では、また会おう。イリア君、お嬢ちゃん。」

「……レリーアですわ。」

「そうだったな。ではな、イリア君、レリーア君。」


 お別れを済ませて歩きだすドッコイ。

 行く先も分からぬ先へと向かっていく。


「ドッコイさん! 助けてくれてありがとう!」


 イリアがお礼を言うと、ドッコイは指を立てて返事をする。

 そうして両者はお別れをする。

 またいつか会う日まで。

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