5・挙式の前日
花道を歩いてくるユリアーネとグスタフは幸せそうだ。ふたりの結婚式は無事に済んで、めでたく夫婦となった。
よかった、よかった。俺は良い行いをした。好き合うふたりの縁を結んだのだからな。たとえ目的が、自分の願いを叶えることなのだとしても。
俺の秘密の恋情を、思わぬ形で知ったレイルズは積極的に協力してくれた。俳優ばりの俺の演技力と、絶妙なタイミングで知らせたユリアーネたちの両片想いの効果が絶大だったためもある。
おかげでレイルズは
新郎新婦がホスト席に到着し、客たちもそれぞれに割り当てられた卓につく。俺は国王夫妻と一緒だ。それからローザリンデとも。なにしろ婚約者だからな。
笑い出したい気分だが、気を引き締めてしかめつらを保つ。万が一、ローザリンデと俺の結婚が、両家の仲を憂いた王の一存ではなく、実は俺の片想いによるものだと公になったら、大変だ。
どちらの当主も、先代に頼まれたレイルズに敬意を払って王命にしたがったのだ。それに両家の対立が国政の妨げになっている自覚もあるからだ。
だからこそ、憤懣やるかたない結婚の真相を知ったならば、怒り狂うこと間違いなしだ。
当主たちの赫怒なんてどうでもいいが、ローザリンデを失うわけにはいかない。
本当ならば毎日毎時間でも口説きたいところだが、我慢している。だがそれもあと一日。あしたには彼女は俺の妻になる。堂々と愛し、キスできるようになるのだ。
◇◇
席にふたりきりになった途端にローザリンデが無言で席を立ち、庭の奥へ消えた。
俺と話すことなぞないからだろう。だが、そうでなかったら?
彼女はグスタフに未練はないし、惚れている男もいない。でももしかしたら俺が知らないだけで、あいつを思って泣くのかもしれないし、結婚前の最後の逢瀬に行くのかもしれない。
思いついたそんな考えに、アホらしいと思いつつも無視することができずに彼女のあとを追った。
すぐに彼女をみつけられた。ひとりだ。ほっと息をつく。
と、
「代わりに、『最後のお願いをレイルズにしよう』とディートリヒを誘ってみる?」との呟きが聞こえてきた。
カッと頭に血がのぼる。婚姻は明日だというのにローザリンデは、まだ覚悟を決めていないのか。それほどまでに俺が嫌か。いや、カーマンが嫌なのだろう。俺たちは生まれ落ちる前から、そのように言い聞かせられている。
だが、悔しい。
「無意味だ」
と、怒りのままに言い放つ。
ローザリンデ、現実を見ろ。お前には俺の妻になるしか道はない。そのように俺がしたのだ。お前があまりに俺の心を捉えるから。
なにがあっても、逃がすつもりはないぞ。
だから腹をくくって挙式に臨め。
それが終わり、お前が俺のものになったなら。溺れるほどの愛の言葉を囁やこう。恋愛に縁のないローザリンデが恥ずかしくていたたまれなくなるほど、可愛がってやる。
あと、一日だ。
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