4・惚れ薬の効果
これ、キスよね?
結婚式では拒んだのに、今はするの?
というか、ディートリヒはまつげが長いし私の心臓は壊れそうだわ。
て、撤退よ!
と思ったそばから、がっしりと背中に手を回されて身動きがとれなくなってしまった。
惚れ薬、効果がありすぎじゃない!?
ありったけの力でディートリヒの腕や胸を叩く。
なんとか彼は離れてくれた。顔だけ。
「全然覚悟ができてないじゃないか」とディートリヒが睨んでくる。
「違うわ! 薬の効果でこんなことをするの、あなたはイヤじゃないの?」
「別に?」
「……え。そうなの?」
あら?
そういうもの?
だってあなたには好きな人がいるのよね。
「だから」とディートリヒ。「お前が逃げる口実はないぞ」
「そんなのではないと言っているでしょう!」
「ならばヤルからな」
「ヤ……」
反射的に後ずさろうとして、ガッチリと捕まっていたことを思い出す。
「また逃げようとした」とディートリヒが不機嫌そうに目を細める。
確かに。今のは否定できないわ。
……というかもしかして、私は本当にディートリヒに同情したフリをして結婚や初夜から逃げようとしていたのかしら。自信がなくなってきたわ。
自分で自分の考えがわからない。
顔は熱いし、早鐘のように脈打つ心臓が苦しくて仕方ない。
ディートリヒの指がまた頬をなぞった。ビクリとしてしまう。
「可愛いな、ローザリンデ」
「可愛い!?」
「薄明かりでもわかる。耳まで真っ赤だ。キスは初めてか?」
「当たり前でしょ!」
ディートリヒが満足そうににっこりとする。
「それはよかった」
「なぜ?」
「グスタフを憎まなくて済む」
「どういう意味なの?」
「俺は惚れ薬をのまされているんだろ?」
なんで疑問形なのかしら。
「だから今、ローザリンデへの愛が爆発しているわけだ」
「お、落ち着いて! 水を飲みましょう、ね、そうしましょう!」
「落ち着くのはお前だ。まあ、そんなところも可愛い」
チュッ、と軽くキスをされる。
「愛しいし嬉しいし二度と離す気はないし、食べ尽くしたいぐらいだ」
「やめて、私、食べ物ではないわ! そういうのは好きな人に言って、私ではなく」
「ローザリンデを好きだが?」
「惚れ薬のせいでしょ!」
ガバリ、と横抱きにかかえ上げられた。
「ディートリヒ!」
「やっと俺の名前を呼んだな」
「おろして!」
「勿論おろすさ」
との言葉とともに、おろされた。寝台の中央に。
膝立ちしたディートリヒに見下されている。
「あの、ちょっと休憩。ひと息つきましょう。冷静になって――」
「往生際が悪いぞ」
「だって」
「腹をくくったというのは嘘だったのか。ヒュブナーの誇りは随分と情けないものだな」
誇り、か。
そうよね。それはとても大事なものだわ。
ヒュブナー家にとっても、カーマン家にとっても。
ディートリヒを見上げる。
「あなたはカーマンの誇りのために、惚れ薬をのんで今夜を乗り越えようとしているのね?」
「そうかもな」
「わかったわ。私がすべきことは同情ではなくて称賛だったのね」
「そりゃどうも」
目をつむり、息を吐く。
余計なことは考えない。
「あなたの覚悟に敬意を払うわ。どうぞ。手早くお願いね」
「手早く?」
バカにしたような声に、目を開く。ディートリヒはまたも不機嫌な顔をしていた。
「惚れ薬をのんでいるんだぞ。ローザリンデが恥ずかしさに悶え死ぬほどの睦言を朝まで囁いてやるし、寝かせるつもりはないからな」
「は!?」
ディートリヒが笑みを浮かべる。
「覚悟をしろよ。俺の怒りを思い知らせてやる」
「え、怒りってな――むぎゅ」
またも唇を塞がれた。
ちょっと待ってよ! 私と結婚しなければならない怒りを私に向けるのは、筋が違わないかしら。
そう言いたかったけれど、無理だった。
惚れ薬は本当に効果が強力すぎる――。
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