深夜の電話

 深夜の静寂を破るように、電話が鳴り響いた。時計を見ると午前二時。


 いやおかしい。午前零時から六時までは着信音は鳴らない設定のはず……


 俺は枕元の携帯に手を伸ばし確認する。知らない番号だ。

 もちろんそのまま切る。が、直後にまた鳴り響く着信音。

 同じ番号からだ。


「ちっ、イタズラか?」

 今度はその番号を着信拒否リストに入れる。

 ところが、即座に同じ番号からかかってきて着信音が鳴る。


「どうして? くそっ」

 俺はいらだち、相手に文句の一つも言ってやろうと、電話に出た。


「おい、いま何時だと思ってるんだ!」

「……ごめんなさい、カズくん」

 かすれるような女の声。聞き覚えもないし、そもそも俺はカズくんではない。


「えっ? だれ? 俺は――」

「私、もうダメ…。さようなら…。エミのこと、忘れないでね……」

 予想外の成り行きに、俺は混乱する。


 さようなら? 忘れないで? それって――


 最悪の事態を想像し、俺は電話の向こうの相手に叫んだ。

「ちょっと、待って、おい!」

「――――」

 だが返ってきたのは静寂のみ。


「おい! あんたぁ!」

 再度呼びかけた瞬間に、通話が切れた。

「くそっ…」

 俺は慌ててリダイヤルする。が――


『おかけになった電話番号は現在使われておりません』


 繋がらない。

 いや、おかしい。使われていない?


「どうして……」

 再度リダイヤル。結果は同じ。


「ああ、もう、どういうことなんだ……」

 携帯の画面を見つめ悩むが、どうしようもない。使われていない番号に繋がるわけないのだから……


 もしかしたらもう一度かかってくるかも――そう思いしばらく待ったが、何の反応もなく、こちらからは打つ手はないので、そのままベッドに横になった。しかし、電話のことが気になって熟睡は出来なかった。



 翌朝、完全に寝不足な頭を冷水での洗顔や濃い目のコーヒーでどうにかはっきりさせ、どうしても気になったので例の番号にもう一度かけ直してみた。

 やはり、使われていない番号だと繋がらなかった。

 電話が繋がらない以上、できることは何もないので、気にはなったが出社すべく家を出た。


 結局、奇妙な電話はその後かかってくることはなかった。

 どうしても気になり、どこかで女性が自殺した、なんてニュースがないか色々調べて見たが、それらしいものは見当たらなかった。


 一体何だったのか、未だにわからない。


 何故、設定を無視して着信音が鳴ったのか?

 何故、着信拒否にしても繋がったのか?

 そもそも、使われていない番号と何故通話できたのか?


 疑問は様々残ったが、調べるすべはなかった。


 ただ、後で気づいたのだが、あの電話がかかってきた番号は、あの日の数日前に契約したばかりの番号だった。メインで使っている回線が、システムトラブルで長い時間使えなくなった事があり、そんな時のためのサブの回線をと契約したばかりのものだったのだ。


 もしかしたら、あの電話は前に使っていた人間にかかってきたものなのかも……

 それも、この世ではない場所から――


 そんな考えがつい浮かび、俺はその番号を即座に解約した。


 その番号は今は他の誰かの元に渡っているかもしれない。

 もしかしたら、今晩、その誰かにあの女からの電話が――


 そんなことを電話の着信音を聞くとふと思ってしまうのだった。



おしまい

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