ありそうでなさそうな怖い話たち

よし ひろし

鼻をかんだら…

 その男は酷い鼻炎持ちだった。


 春の花粉症の時期は当然、今の熱い真夏にも鼻水が止まらない。原因はクーラーで冷えた室内と酷暑ともいうべき外との温度差にあった。寒暖差アレルギーというやつだ。


 その日も外で昼食を採り、暑い中を涼しいオフィスに戻ると、鼻水が垂れて止まらくなった。

 そこで、いつも通り保湿成分の入った柔らかいティッシュで鼻をかむ。


 チィーッ!


 まずは一回。右の鼻の穴を抑えて、左側をすっきりさせる。

 その時、男は左目の瞼がピクリと震えるの気づいた。最近、鼻をかむとこうなることが多い。鼻と目は繋がっているというから、ま、そういうこともあるのだろうと気にはしていなかった。


 次に、左の穴を抑えて鼻をかむ。

 今度は右の瞼がピクリと震える。


 ティッシュを離して様子を見るが、まだかみきっていないようだ。


 そこで、ティッシュを器用に折りかえて、新しい面を鼻にあてる。

 再び右の鼻の穴を抑えて、息を吸う。そして、鼻の奥のほうに残るもやもやを外に出そうと、先程より強めに息を鼻から出す。


 チィーッ!


 その時――


 ずずっ……


 いつにない違和感を覚えた後、頭痛が襲ってきた。

 強くかみすぎて、脳の血管が切れたのか――男は一瞬そう思ったが、すぐに更なる違和感に気づく。


 視界がおかしい――


 映像がズレて見える。ボケたり、ブレたりではない。右目と左目、見ている場所が違う。


 その時になって、痛みが頭ではなく、左目から発しているのに気づく。


「あ、あああぁ、目が……」


 左目が眼窩から飛び出してしまっていたのだ!


 男のうめき声で、周囲にいた同僚も気づき、すぐに救急車を呼んでくれた。


 緊急搬送された男は、幸いにも無事治療され、三日後には出社して普通に仕事を始めた。

 ただ、鼻をかむのが怖くなり、今は垂れないようにティッシュを丸めて詰めて仕事をしている。


 皆さん、鼻をかむときは強くしすぎないように、充分注意しましょうね。


 おしまい

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る