第32話 特性の可能性ありです

 リリアンナが特性絡みの研究に関して無理矢理丸め込まれた後、気を取り直してララのその能力に感じた疑問を口にすると、再び誰もが眉を顰め、顔を険しくした。


 特性の能力の強さは、本人の魔法力の強さと比例しているはずだが、その割にララの特性の力は彼女の魔法力に対して強過ぎるように感じる。


 実際にララが魔法を行使する場面を見たことはないが、調査結果を確認した限りでは、学園で一番その力は弱く、平民の一般的な魔法力と比較しても劣っているらしい。


 それを考慮すると、特性の能力だけであれほどアンナに心酔していると言うには疑問が残る。


 他にも何らかの要素が含まれているような気がしてならない。


 その結果、ララが隷属しているアンナの魔法の能力に関しても、改めて詳細に調査されることとなった。


 アンナにも何らかの能力があり、その力が介入している可能性が否めないからだ。


 それに加え、アンナと彼女を除くザボンヌ子爵一家、それからララとバロック男爵一家の魔法力の比較を、それぞれ行うよう進言した。


 基本的に血の繋がりのある者同士であれば、魔力保有量や魔法力の強さはほぼ同じになるはずだが、アンナとその弟のニコラスでは、魔法力に差があり過ぎる。


 仮にアンナが特性持ちであったとすれば、それが影響している可能性がないとも言い切れない。


 特性持ちであることが判明しているララとその元家族との魔法力を調査し比較するのは、アンナが特性持ちであった場合を考慮してのものである。


 もしリリアンナの考えている通りであれば、アンナとニコラスの魔法力の差に対する疑問に一石を投じることができるはずだ。


 そう考えを巡らせていると、それを察知したらしい国王に、後は全て任せて領地でゆっくりしてこいと、笑顔で応接室を追い出された。


 エドワードが宿泊していた部屋まで送ってくれたが、リリアンナにしてみれば、連行されていると言った方が近い状態だ。


 いつもは皆可愛がってくれているのに、魔法が絡むと何故こんなに厳しいのだろうと、リリアンナは軽く頬を膨らませる。


 更に国王は、リリアンナの両親にもしっかりと話を通し、当面は魔法の研究及び開発をさせないように言い含めていたが、それはリリアンナの与り知らぬことだ。


 その結果、両親により最初の二週間は魔法研究施設への立ち入りが禁止されることになるのだが、リリアンナがその本当の理由を知ることはなかったのだった。


◇◇◇


 オルフェウス侯爵一家が、同じ馬車に四人だけで領地に向かうのは今回が初めてのことだ。


 昨年まで一緒だったルイスがいないからか、父も母も何処となく寂しそうに見える。


 オルフェウス侯爵家の次男、そしてリリアンナの双子の弟としてこの世に生を受けたルイスは、学園入学を前にコルト侯爵家の後継となるべく養子に入った。


 母エレノアの弟であり、リリアンナ達にとっては叔父に当たるトビアス・コルト侯爵は、ギルバート同様、幼い頃の病が原因で子を成せなくなっている。


 エレノアとトビアスは二人きりの姉弟だったこともあり、ルイスは生まれた時点で、何れコルト侯爵家を継ぐことが決まっていたも同然だった。


 大きな病気もなく順調に育ち、養子に入る時期を本格的に検討し始めた当初は学園卒業後の予定だったが、ルイス本人の希望により入学前に変更された。


 エドワードの側近候補として必要な勉強もあることから、余裕を持って早めにコルト侯爵家の領地運営について学びたいと、学園入学前に養子に入ることを決めたのだ。


 そのルイスは、コルト侯爵領と王都を行ったり来たりした後、一週間オルフェウス侯爵領に滞在することになっている。


 そして夏休み後半、ミレーヌと共にやって来たルイスは、エドワードからの手紙を預かってきていた。


 手紙には、アンナが特性持ちである可能性が高いこと、それにより王宮の監視下に置いた状態で魔法省預かりになると決まったことが書かれてあった。


 アンナは夏休み中に学園の寮を退寮し、魔法省の施設内にある監視可能な部屋に移ることになったそうだ。


 だがアンナ本人は、王家に迎え入れられたと解釈し大喜びしているようで、何故そうなるとエドワード達が頭を抱えていたのは言うまでもない。


 王宮と魔法省は近い場所にあるが、当然別物であり、アンナが王宮に立ち入ることは皆無であるはずだが、それは彼女の頭の中には存在していないようだ。


 相変わらず物事を都合の良いように改変しているようだと、頭痛を覚えながら呆れるしかない。


 魔法省の研究員達の苦労を思い、ストレスで身体や精神を壊しませんようにと願うばかりだ。


 尚、これに関してリリアンナは完全に自分のことを棚に上げているのだが、本人にその自覚がないのはいつものことである。


 アルフレッドはリリアンナが絡むとポンコツになるが、リリアンナは魔法が絡むと優秀過ぎて常識がポンコツになるのだ。


 二人とも他は極めて優秀な分、それがより顕著になっているのであった。


 そしてルイス達が来る少し前、ある人物からリリアンナへの面会を願い出る手紙が届いていた。


 その人物は、ルイスとミレーヌが滞在している期間中にオルフェウス侯爵領にやって来る予定だ。


 彼に会うのは久しぶりだなと思いつつ、彼の状況を考えると、きっと複雑な心境に陥っているのではないだろうかという気がしたリリアンナは、苦笑しながらその日を迎えることになるのであった。

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