第27話 残り僅かな日々

 リリアンナの学園生活に変化が生じて以降、クラスでは空気同然な状態のまま、気付けば卒業まで残り一ヶ月となっていた。


 クラスは成績順で振り分けられるので、学年が上がれば顔触れが変わることも珍しくないが、Aクラスは誰も脱落することなく、三年間同じメンバーで固定されていたこともあり、リリアンナとクラスメイト達との関係も変わらないままだ。


 そして、アンナがリリアンナに絡むのも相変わらずである。


 朝はエドワード達と共に登校しているアンナと会わないよう、彼らより早めの時間に学園に着くようにしているお陰で顔を合わせずに済んでいるが、それ以降の時間は、教室に押し掛けて来たり、リリアンナから数メートル離れた場所で転んだりと、よくもまあ飽きもせずに続けられるものだと思わず冷笑を零してしまう。


 リリアンナがアンナに触れたことなど一度たりともないというのに、魔法でも使わない限り、接触しなければ不可能なことを堂々と騒ぎ立てるものだから、滑稽にも程がある。


 リリアンナもミレーヌも、今ではアンナが何をしようと気にも留めなくなり、何事も起きていないかのように振る舞うなど慣れたものだ。


 どうせリリアンナが反応しなくても、エドワードに優しく気遣われているのだから、そちらの方がアンナにとってはより重要なことであるに違いない。


 エドワードがリリアンナよりアンナを優先していることに、得意満面で勝ち誇った様子を隠しもしないのだから。


 リリアンナもエドワードのその行為を、咎めるどころか気にもしていない。


 これもいつものことね、と思う程度だ。


 そして、アンナは結局のところ、三年間Fクラスから抜け出すことはできなかった。


 入学時にはFクラスだった他の生徒達は全員、二年進級時にEクラス以上に上がったというのに、たった一人Fクラスに残っている。


 しかも現在、全学年通じてFクラスに在籍しているのはアンナ一人だけだ。


 アンナの二歳下の弟であるニコラスは、Aクラスというだけでなく、一年の首席を守り続けているのだから、余計にアンナの成績の酷さが際立っている。


 だが、相変わらずアンナ自身は、常に自分はエドワードに次ぐ学年二位でリリアンナは成績発表圏外だと思い込んでいるのだからたちが悪い。


 実際には、リリアンナが毎回首席、エドワードは三年間で二度だけ僅差の二位で、あとはリリアンナと同点で首席、アンナは最下位を独走というのが、紛れもない現実なのだが。


 周囲もそんなアンナの奇行には既に慣れており、遠くから奇異の目で眺めるだけだ。


 ニコラスだけは毎回死んだ魚のような目をしているが、いくら事前に聞かされていたとしても、血の繋がった姉のこんな姿を実際に目にすれば、そうなるのも仕方がないことだろう。


 それはそれで気の毒だとは思うが、どこでアンナが見ているか分からない以上、下手にニコラスに慰めの言葉を掛ける訳にはいかず、こっそり遠くから慰めと激励の意味を込めた視線を送るだけだ。


 もう少しの辛抱なのだから、気を強く持ってほしいと願うしかない。


 それはそれとして、卒業まで残り一カ月となれば、卒業式の後に王宮で開かれる卒業パーティーの話で賑わうことも多くなる。


 アンナは、その卒業パーティーでエドワードにエスコートしてもらえると思い込んでいるようだが、これまでの王宮主催の夜会同様、エドワードのエスコートを受けるのはリリアンナだ。


 それはどうやっても覆らないし、そこでエドワードとリリアンナの婚約が発表されるのも決定事項である。


 これは、アンナを含めた当人達がどう思っていようと、決して変わることはない。


 そこでアンナが何か仕掛けてくるのは間違いないだろうが、どう足掻こうとそれはどうにもならないことなのだ。


 卒業パーティーで波乱が起きるのが確定しているというのは、考えただけでも気が遠くなりそうだが、既にそれが避けられない状況になっている。


 正直気が滅入るが、リリアンナは正々堂々と立ち向かうだけだ。


 その為の準備なら着々と進めている。


 リリアンナ自身、このままで終わらせるつもりはない。


 絶対にアンナの思い通りにはさせないと、リリアンナは改めて強く誓いを立てた。

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