第19話 建国祭初日です

 王宮主催の夜会で、王族のパートナーを務める者は、王宮でその準備を行うことになっている。


 建国祭初日、エドワードのパートナーを務めるリリアンナは前日から王宮に泊まり、朝早くから準備に追われていた。


 王宮とオルフェウス侯爵家の侍女達が、湯浴みに始まりマッサージと嬉々としてリリアンナを磨き立てている。


 本来は王宮の侍女達だけでリリアンナの支度を行う予定だったが、侯爵家の侍女達から、記念すべきリリアンナの社交界デビューの支度を是非手伝いたいと訴えられ、こうなった次第だ。


 妖精姫の異名を持つリリアンナを飾り立てるのは楽しくて仕方がないらしく、最後の仕上げに至るまで、誰もが喜色満面の笑みを浮かべていた。


 ウェディングドレス以外ではデビュタントのみ許されている白のドレスを身に纏ったリリアンナは、清楚で儚げでありながら年相応の色気を醸し出している。


 華奢で腰は折れそうなほど細いが、反対にこの年頃にしては豊かな胸は女性らしいラインを描き、少女から大人の女性への転換期特有の危うささえ漂う。


 支度を終えた侍女達はその姿にうっとりと見惚れ、称賛とともに溜息を零している。


 一つ難を挙げるとすれば、今はまだ、アクセサリーでさえエドワードの色を纏えないことだろう。


 迎えに来たエドワードにエスコートされ、王族用の入場口から会場に入ると、国王と王妃の両陛下に社交界デビューの挨拶を済ませる。


 国王の挨拶で夜会が始まり、国王夫妻のダンスが終わると、次は王太子であるエドワードとリリアンナのファーストダンスだ。


 一枚の絵画のように美しく、社交界デビューとは思えない、堂々としたダンスを披露した二人は会場中の人々を魅了し、溢れんばかりの拍手が送られた。


 二人が拍手の中、ホールの中央から壁際へと移動すると、同じくデビューを迎えた者達のダンスが始まる。


 時折、遠くからアンナの視線が突き刺さるが、王太子と侯爵令嬢の仮面を貼り付けた二人は、笑みを浮かべたまま動じる様子など見せない。


 アンナに足を踏まれる度に顔を引き攣らせているザボンヌ子爵が上手くコントロールしてくれれば、こちらには近付くこともできないだろう。


 他の出席者がダンスの輪に加わり、あちらこちらで歓談する姿を眺めながら、エドワードとリリアンナは葡萄ジュースで喉を潤す。


 社交界デビューを果たせばアルコールを摂取しても構わないが、念の為、今日はそれを避けておくつもりだ。


 公式な場では、エドワードの傍らには正式な護衛が控えていることもあり、クリフは筆頭公爵家トリアード公爵令息として今日の夜会に出席している。


 今は当主である父親と共に後継として挨拶回りをしており、最初の挨拶以降、エドワードの近くには来れていない。


 コルト侯爵家の後継であるルイスも挨拶回りの最中で、当分こちらには来れなさそうだ。


 婚約者のいないミレーヌも親に連れ回されているようで、エドワードとリリアンナに助けを求める視線を送ってくるが、貴族達の挨拶を受けている最中の二人にはどうしようもない。


 漸くそれが一段落したところで、解放されたミレーヌが力尽きた様子でこちらにやって来る。


 だが、やって来たのはミレーヌだけではなかった。


 アンナはザボンヌ子爵がこちらに近寄らないようにしているので、こちらへ来ようとしても近付くことができない。


 子爵と夫人、どちらから一定の距離以上離れられないようにするかは、その都度魔道具を操作して切り替えているらしく、その仕組みは大いに気になるところだが、そちらへの興味は一旦置いておくことにする。


 代わりにやって来たのは、リリアンナ同様デビュタントの白いドレスを身に纏った、アンナと同じFクラスのララ・バロック男爵令嬢だ。


 約一年程前に父親が叙爵されたことで貴族の仲間入りを果たした令嬢で、アンナに心酔しているとの報告を受けている。


 アンナに次いで成績が悪く、授業態度も不真面目で問題行動も多いらしい。


 言うまでもなく、要注意人物として警戒されている令嬢だ。


 Fクラスの生徒は極力家族と共に行動し、一人だけで王族や高位貴族には近寄らないよう通達してあるにも拘らず、たった一人でやって来たララに嫌な予感を覚え、リリアンナは思わずエドワードの腕を掴む。


 ララが口を開いたのはそれとほぼ同時だった。

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