第18話 社交界デビューします

 学期末試験にテスト返却、試験順位の掲示が終わり数日もすれば夏休みに入る。


 リリアンナは夏休みの殆どを領地で過ごす予定だが、実際に領地へと向かうのは夏休み十日目だ。


 何故なら夏休み五日目から三日間、建国祭が執り行われることになっており、その初日に王宮で開催される夜会で、王立フォレスト学園の一年生は社交界にデビューすることになっているからだ。


 リリアンナ達は勿論、アンナもその夜会には出席する。


 それに関して、当然アンナが何か騒動を起こさないかと危惧していたが、既に国王が対策を講じていたらしい。


 アンナのエスコートは父親であるザボンヌ子爵が務めるが、ザボンヌ子爵または夫人から一定の距離以上離れることができない上、一定の大きさ以上の声が出せない魔道具の使用を命じたそうだ。


 しかもその魔道具は、態々魔法省に開発させたとのこと。


 恐らく魔法省は嬉々として開発を請け負ったであろうが、アンナ一人の為に大事になりすぎている気がしないでもない。


 そのくらいしなければ、アンナを夜会に出席させられないのだろうが、それはそれでどうなのだろうか。


 ただ、Fクラスの生徒達が出席するのは、社交界デビューとなる初日の夜会だけだ。


 二日目と三日目も建国記念日を祝う夜会は開催されるが、社交界に参加するに当たり必要な、最低限の常識やマナーといった教養が身に付いていないとされているFクラスの生徒達は、残り二日間は出席することが認められていない。


 これは、学園では許されても、公式な場では許されない行動をしたが故に罪に問われることを防ぐ為でもあり、Fクラスの生徒達を守る意味もある。


 彼らの多くは、その境遇により貴族として必要な教養を身に付けることができておらず、学園入学後、それらを補うべく努力している最中だ。


 そして、そうした教養は、長い間研鑽を重ねることで身に付くものであって、一朝一夕でどうにかなるものではない。


 今はまだ、社交界に参加するには未熟すぎると判断されたことから今回の参加は見送られたが、彼らの努力次第では、約半年後の新年を祝う夜会には出席が認められることだろう。


 そうした理由から、アンナを警戒するのは初日だけで済む。


 その一日に、それぞれの立場で大変な苦労を伴うことになるだろうが、何事もなく終わるよう努めるだけだ。


 この建国祭に参加する為、一年の多くを領地で過ごすリリアンナの両親、オルフェウス侯爵夫妻も王都のタウンハウスへとやって来た。


 リリアンナが両親と会うのは学園入学以来、約四ヶ月振りとなる。


 アンナに関する報告を受けていた両親には、随分と心配を掛けていたようで、顔を合わせるなり母のエレノアに抱き締められた。


 出遅れた父のフランツは、腕を伸ばしかけた姿勢で暫し固まっていたが、離れる様子のないエレノアごとリリアンナを抱き締め、まずは着替えてこようと、エレノアを部屋へとエスコートしていったのだった。


 アルフレッドも加わり、サロンでお茶にすると、自然と話題はリリアンナの社交界デビューとなる夜会の話になる。


 アンナに対する対策は勿論怠る気はないが、それは王家でもしっかりと練られており、オルフェウス侯爵家としては、王家と連携して動くだけだ。


 アンナに対し手出しを禁じられていることからアルフレッドの不満は溜まりに溜まっているが、実際に対応している者達の方が何倍もストレスが凄いことになっているだろうから、そこはどうか堪えてほしい。


 それよりも、フランツもアルフレッドもリリアンナをエスコートできないのが不満らしく、頻りに恨み言を吐いている。


 エドワードとの婚約が公表されていない以上、婚約者がいないことになっているリリアンナのエスコートは、父親のフランツか婚約者のいない兄のアルフレッドが務めるはずだが、慣例により、リリアンナはエドワードのパートナーとして彼のエスコートを受けることになっている。


 王族が社交界にデビューする際は、同じ年に社交界デビューする、婚約者のいない、最も身分の高い異性がパートナーを務めることになっているのだ。


 三つある公爵家で未婚の令嬢は、今年七歳と三歳になる二人だけ、よって侯爵家序列一位のオルフェウス侯爵家の令嬢であるリリアンナが、エドワードのパートナーとして夜会に出席することになっている。


 それは、その王族の婚約者が発表されるか、またはそのパートナーに婚約者ができるまでは、その後の王宮主催の夜会でも継続してパートナーとして出席しなければならない。


 今回はそれが偶々、エドワードの婚約者であるリリアンナだったというだけだ。


 社交界デビューとなる夜会は三日後、無事に乗り切らなければと、リリアンナは気を引き締めるのだった。

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